▽ 甘える
「なあ、甘えるって何か分かってるか?」
突然、スタースクリームはそう言った。
何事だとルイは椅子の向きを変えて彼を不思議そうに見つめた。
「どうなさったんですか?急に…」
「スカイファイヤーから言われた。てめえはもっと甘えていいんだとよ」
いつものようにルイのベッドに寝転がりながら、スタースクリームは暗い天井を見上げていた。
「…てめえ、というのは、スタースクリーム様のことですか?」
「は?」
経費削減のため、コンピュータの画面しか明かりがない部屋の中でスタースクリームの真っ赤に淡く光る眼がルイを捉える。
間違った捉え方をしてしまったのかと、ルイはたじろいだ。
「で、ですから、スカイファイヤー様は『スタースクリーム様はもっと甘えてもいいのでは?』と仰ったということですか?」
「ちげえよ。てめえだよ」
「え?」
「てめえの話をしてんだよ」
お、ま、え。
スタースクリームはそう強調して言い、ルイを指さした。
ここでルイは首を傾げた。
「甘える…?」
「んだよ。その考えられねえみてえな顔は」
「だって甘えられたら鬱陶しいでしょう?」
は?
今度はスタースクリームが首を傾げた。
「忙しい時にくっつかれたり話しかけられたら、気が散って集中できないし、終わる仕事も終わらないじゃないですか」
「ほほう。てめえそれは俺のことを言っているのか」
「自覚はあるのですね…」
彼女はため息をついた。
意外なところで彼女の本音が聞けたので、スタースクリームは内心ワクワクしていた。いつもの違う彼女が現れようとしている気がする。
「正直、スタースクリーム様がくっついてきたり話しかけてくださるのは嬉しいのですが…仕事しながらだと…その…」
「んだよ。もったいぶるなよ」
スタースクリームはツカツカと彼女に歩み寄り、椅子に座って俯きがちになっている彼女の顎を人差し指でクイと持ち上げた。
「…」
「聞かせてくれよ。何が言いたい?言ってみろよ。甘えてみろよ」
彼女の瞳を覗き込むように、スタースクリームは顔を近づける。ルイは目を逸らした。
そんな彼女の態度に、スタースクリームは意地でも吐かそうと粘ることにした。
「なあ」
「やです…」
「俺が嫌だ。てめえの言いたいこと聞けないのはつまんねえんだよ。従順なのはいいが、ちょっとは反抗するか言いたいこと言ったっていいんだよ」
スルリと彼女の頬を撫でてみる。
ルイは触れられるのが好きだ。乱暴なのもだが、優しく優しく、壊れ物を扱うように撫でたり指先でなぞると、表情が変わってくる。
いつもの優しくて少し堅い優等生のようなすました彼女から、目つきがとろんとして物憂げにこちらを見つめる色っぽい彼女に。
「スタースクリーム様…」
「何が言いたい。ルイ」
「…仕事中は…私、コンピュータのことばかり見てる状態です。だって仕事を早く終わらせたいから」
「へえ。俺様のことは見てねえと」
「スタースクリーム様のことはちゃんと見てます。でも、私は」
ルイは頬にあったスタースクリームの手に触れ、両手でそっと握りしめて摺り寄せた。
「お仕事がちゃんと終わって、スタースクリーム様のことしか見れないような、考えられないような状態で、貴方と一緒にいたいんです。触れたいんです」
彼女のその気持ちに、スタースクリームは自分の中で黒い欲望が渦巻くのを感じた。
「早く仕事を終わらせたいけど、スタースクリーム様はいつも話しかけてくるから、正直何も満たされないまま一日終わってしまうことが多いような…」
言えるじゃないか。甘えられるじゃないか。仕事なんかほっぽり出して俺だけ見てればいいのに。
俺だけを見ることしかできないようにしてやりたい。
スタースクリームは強引に彼女の唇を奪い、彼女を抱えてベッドに向かった。
「スタースクリーム様っ、まだ仕事…」
「俺のことだけ考えてろよ」
ベッドの縁に彼女を座らせゆっくりと彼女を押し倒す。
「だから、しご…」
「仕事なんてどうでもいいって、思わせてやる」
そういった瞬間、スタースクリームは彼女の表情が崩れるのを見た。頭の中が仕事のことよりも目の前の自分への欲情が勝った瞬間だ。
義務感と欲がせめぎ合って、負けた彼女。
スタースクリームはそんな彼女を欲の中に叩き落すように乱暴に唇を奪い、彼女のすべてをむさぼった。
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