dear dear

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 ああ、けれど、その考えはまったく甘かったのだ。
 出会ったころから存在した約束は忠実に履行される。クレスツェンツは王家へ嫁ぎ、アヒムは故郷へ帰る。
 ふたりとも時を同じくして与えられた自由な時代に、たまたま互いの姿を見つけたに過ぎない。
 そのいっときの偶然はクレスツェンツにとって何より大切な宝物だったが、いつの間にか親友を手放さずに済むのではないかと思い込んでいたようだ。自分が王に嫁いでも、彼は友でいてくれたために。
 そして終わりが来たのなら、クレスツェンツは静かに受け入れねばならなかった。
 もう駄々をこねられるような幼子ではない。様々なものを割り切り、飲み下せる大人になった。
 約束は約束。
 ただ、そのときが来る前にアヒムに会いたかった。
 彼が帰る前に、自分の声で、じかに告げる言葉で、次の約束をしたかった。
 「また会おう」 と。

 しかしそれはついぞ叶わず。
 アヒムは数ヶ月の間グレディ大教会堂に属する僧侶として修行をし、導師の位階を授けられると、新年の祝賀の熱が冷めやらぬうちに王都を去った。
 祝賀行事で忙殺されているクレスツェンツには、手短に別れを告げる手紙を寄越しただけで。






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