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「それで、」
手許を見ていたアヒムも顔を上げた。視線がかち合う不意打ちにびっくりし、つい手を止めてしまっていたクレスツェンツは慌てて作業を再開する。
「僕に用があったのでは?」
「あった。ものすごくあったのだけど……」
クレスツェンツが薬包を二つ作る間に、アヒムは三つ作っていた。早い。
この作業を手伝ってきた経験はクレスツェンツのほうが長いはずなのに、あっという間にアヒムのほうが上手になった。
どうやらこれも、クレスツェンツがすべき仕事ではないようだ。
アヒムは大切な友人だったが、この一年、彼を見ているとだんだん不安になっていった。クレスツェンツが施療院に通う意味などないのではないかと、そんなことばかり考えてしまう。
医師を目指して学び、ほとんど毎日施療院に来ているアヒムには、知識でも患者たちの病状を把握することに関しても、単純な作業の能率でさえ敵わない。
専門的な話にも混ぜてもらえない。
彼について行くために勉強するには時間も足りない。
せっかく施療院で働くことを認めてくれる友人が出来たのに。
だから何かしなくてはと思いここへ来るのだが、クレスツェンツがすることは全部、手伝いの域を出ない。
こんなことでは王家へ輿入れすると同時に施療院との繋がりは切れてしまうのではないだろうか。
じわじわ這い上がってくる逼迫感に指がもつれそうになって、クレスツェンツはあえなく手を止めた。
「なんと言えばいいのか、よく分からないのだ」
そもそもアヒムに訴えたところで、彼にどうにかしてもらえることでもないはずだ。
これはクレスツェンツの問題であり、アヒムにはアヒムのやりたいことがある。
先に行かないで。わたしをのけ者にしないで。
そんなことを言って甘えたいわけではないのに。
だけど今はどんな言い方をしても、クレスツェンツの気持ちはアヒムの足を引っ張る言葉にしかならない気がする。
「あの……」
妙にうろたえたアヒムの声が気になり、クレスツェンツは顔を上げた。
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