dear dear

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「はい」
 彼はわずかにたじろぎ、けれど鮮やかな緑色の瞳を真っ直ぐクレスツェンツに向けてきた。返事も明瞭でクレスツェンツを避けようとはしていないらしい。
 逃がすものか、と意気込んでいた彼女は肩透かしを食わされる。
「アヒムは、昨日も、一昨日も、その前の日もここに来たのよ。姫さまとお話、したかったんでしょう?」
 どことなく険悪な雰囲気に怯えつつも、少女が勇気を振り絞って二人の間に割って入ってきた。そしてアヒムを擁護するかのようにその脇に寄りそう。「ね?」と少年に同意を求める彼女の様子はひどく不安げだった。
「姫さまはいないの? って、オーラフ様に訊いていたもの。お話ししたかったのよね?」
 アヒムは苦笑交じりに頷いて、必死に自分を庇おうとしてくれる少女の頭を撫でた。
 再度クレスツェンツを見上げてくる彼の表情はずいぶんばつが悪そうだ。
 しかしアヒムははっきりと言った。
「誤解していたことを、お詫びしたくて」
 叱られる子供のように悄然としていたが、その真っ直ぐな瞳には目一杯の謝意が見て取れる。
「オーラフ様からあなたのことを聞きました。すみません。よく知りもしないで、失礼なことを言いました」
 そして立ち上がった彼は、あっさりと頭を下げた。気持ちよいほど全面的に自分の非を認めて。
「う、……ああ」
 クレスツェンツは、結局何も言い返せない。
 言葉にもならない間抜けな声を出して、スープの湯気の向こうにあるアヒムの黒髪を呆気にとられながら見つめただけだった。






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