dear dear

あとがき

 物語の最初の方で人物をひとり生み出す時、だいたいは名前も決まっていません。話の流れの中でぽっと存在が浮かび上がってくる。どんな性格で、どんな容姿で、その世界でどういうポジションにいる人なのかは、話の流れが決めていってくれます。
 王妃様もそんな感じで生まれました。多分、web版(文庫版は多少エピソードの順番を入れ替えたので、サイト掲載分をweb版と表記します)『天槍のユニカ』第1章の2話目を書いている時、ディルクさんとユニカの侍女リータの会話にぽつっと出てきたのが最初です。
 その時は、幼いユニカが周囲に恐れられるだけで生活していけるはずがない、ユニカがそれなりにまともな人格を形成することに寄与した立派な親≠ェいるはずだ――それも二人――ということを思いつき、ディルクさんとリータの会話になりました。
 人柄が定まっていったのは、web版第3章なんじゃないかなぁ。
 周りの思惑やディルクさんにつつき回されたユニカが王冠の廟に逃げ込んだり、王妃様のことを思い出したり、王妃様とアヒムがやりとりしていたお手紙が出てきたり、王妃様の影がだんだん濃くなりました。
 王妃様のセリフ(回想の中)を書いたのも第3章が最初(のはず)です。
 陛下とユニカの間にいてユニカを守ったり、二人の関係に悩んだり、またユニカにとってはアヒムの思い出を共有出来る数少ない相手だったりと、ほんとうにユニカの人生を複雑で豊かなものにしてくれた人だったなぁと思います。

 ついでにユニカの世界の『教会』の姿も、『dear dear』の中で定まっていきました。
 ファンタジー世界の宗教の話にはなるべく触れたくないと思いつつ、ユニカの名前がそもそもこの世界の女神様なのでまったく触れないわけにもいかず(笑)
 ユニカの世界の宗教は多神教なのに神殿≠ナはなく教会堂≠ネのは、本尊を定めつつもそのお付きの菩薩や守護神も同じお堂の中に祀っている仏教をイメージしたからです。
 施療院≠ヘ世界各地の歴史の中で神殿や教会から派生したものでもありますが、私がイメージしたのは、奈良時代に光明皇后が設置した『施薬院』でした。
 光明皇后の政策(よりも事業といった方がいいかもしれない)は、実家の藤原氏が運営費用をまかないながらも制度化され、医官の家系である丹波氏が長官を務め、平安時代初期ごろまで機能していました。
 君主の配偶者が強い政治の力を持っていた例として私がニヤニヤしちゃうエピソードで、強くて優しい女性≠ニいう王妃様のイメージをつくるためにぴったりだと思ったのです。
 王妃様が行ったことはやっと制度化されて軌道に乗ったところ。
 それを200年継続させるため、ユニカは跡継ぎとして頑張っていけるのか……!?

 振り返れば振り返るほど、「こんなことを考えながら書いてたんだな」というのが思い出されて話が尽きないのですが、一番の思い出なのは『dear dear』が初めてつくった『本』だということです。
 「王妃様が好き」と言ってくださる方々の声にそそのかされて後押しされて作ろうと決めました。
 ぜんぜん分からない印刷のこと画像編集のことを必死で調べたり教えて貰ったりしながら完成させたので、とっても特別です。
 文庫版の表紙を飾っていただいた漣猗さんの絵も、ほんっっっとうに王妃様だ!って、見る度に思います。展示してありますので、ぜひご覧くださいね。
表紙イラスト

 最後に『dear dear』というタイトルについて。
 「親愛なる愛しい人≠ヨ」という意味でした。
 重言になってしまうので英語に(笑)
 dear≠ェたくさんいるのが王妃様。
 今後も物語の影からユニカを励まして悩ませて支えてくれることでしょう。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。



20180826

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