dear dear

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 昨日現れた少年の一団がなんだったのか。そして、その中に混じっていたあの少年のことを何か知らないか、と。
 詰問すれば、若い僧侶は苦笑しながら答えてくれた。
 曰く、あの少年たちは今年の夏から王立大学院の薬学科に入学する予定なのだという。
 いわば医官の候補生だ。
 この国で医療を行う者は三つに大別することが出来た。
 官制の医師と民間の医師、そして医道を修めた僧侶である。そのうち、一カ所にまとまって組織的な治療を行っているのは施療院の僧医だけで、教義とともに培われた医薬や看護の知識は彼ら独自のものだった。
 一方、王家が資金を出して設立し、シヴィロ王国最高の学問を司る大学院も、長い歴史の中で様々な薬の研究を行っている。
 近年、両者には知識の交換を図る動きが見られるようになった。これから大学院で学んでいく彼らが施療院へやってきたのはその交流の一環だそうだ。
 交流というよりは腹の探り合いというほうが正しいような控えめな動きではあるが。
 オーラフは更に付け加えて教えてくれた。まだ紹介はされていないが、葬儀に顔を見せてくれたあの少年は我が同胞らしい、と。
 オーラフの同胞。つまり教会の大門閥、グラウン家の縁者のことである。
 教会の上層部を占める導主たちは、ほとんどがその家名を名乗っていた。
 彼らは自らの繋がりを『一族』と称しているが、裾野はあまりに広い。王国全土の教会堂にグラウンを名乗る僧侶がいる。そこまで広い血縁を血縁とはいわないだろう。
 グラウン家は、血族というより組織網である。
 あの少年はグラウン家の伝手を利用し、貴族の子弟のみが入学を許される王立大学院へ入るらしいということだった。
 そしてソロンが持ってきた書類には、彼――アヒムの詳細な情報が書かれていた。
 ビーレ領邦、ブレイ村の出身。
 年齢は十六歳。クレスツェンツのひとつ下だ。もう少し幼く見えたのだが、案外歳は近かったらしい。
 連ねて書かれた後見人の名前はなかなかすごかった。
 三人はビーレ領邦の都・ペシラの教会堂に所属する導主たちの名前だったが、その次にはビーレ領邦太守・エメルト伯爵、そして王家の主治医を務めてきた家系のイシュテン伯爵の名があった。
 田舎者のくせにどこにこんな伝手があったのだ。クレスツェンツは目を丸くするしかない。
 どうやら彼の後ろ盾は充分なようだ。もし機会があっても、なんの地位も持たないクレスツェンツが仕返しするのは難しそうな相手だった。
 ちぇっ、と舌打ちしながら、クレスツェンツは書類を放り投げた。






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