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「申し訳なさそうな顔をするな。わたくしが行きたかったのだ。お前にも、ユニカにも会いたかった。けれど間に合わなかった。すまない」
「いいえ、間に合いましたよ。あなたのおかげで、ユニカはひとりきりにならずに済みました」
* * *
クレスツェンツはアヒムとともに王城へ戻り、ユニカが暮らす西の宮へ立ち寄った。
ユニカはこのごろ自室に籠もり、鬼気迫る様子で刺繍を縫い上げていた。
刺繍の図柄は皮肉にも女神ユーニキアだ。ユニカの名の由来であり、病の人を救うという。
ユニカは癒しの力がある己の血を、病床のクレスツェンツに飲ませた。クレスツェンツが快癒し、再び施療院の主導者として多くの命を救っていくことを願って。
しかしそれは叶わず、クレスツェンツは死の淵に足をかけている。ユニカ自身が一番混乱していることだろう。なぜ、クレスツェンツを救うことが出来ないのかと。
そして彼女は、女神の力にすがることにしたようだった。女神の姿を描き上げ、大教会堂へ奉納するつもりなのだろう。
「ユニカは絵を描くのが上手いな。毎年、新年の祝いに大教会堂へ刺繍を奉納していたんだ。自分で下絵から描いていた。縫うのもとても上手だ」
「それはそうでしょう。腕のよい職人に師事していました。なにごともなければ、ユニカも村の女性たちと同じように様々な針仕事をこなせる職人になっていたはずですから」
「そうなれるように守ってやりたかった」
目にも留まらぬ早さで布に色糸を縫い付けていくユニカの肩に、クレスツェンツはそっと手を置いた。
「だけどお前もわたくしも、真の意味でユニカを受け入れることは出来ていなかったのかも知れないな」
その言葉に、アヒムは少しだけ眉根を寄せる。
「わたくしなりに思ったことだ。気にしないでくれ。お前がどんなにユニカを愛していたかはちゃんと知っているよ。しかしお前もわたくしも、ユニカに宿る力は特異なもので、隠し、使ってはいけないものだと思っていなかったか? お前は普通の可愛い女の子だよと言い聞かせることが、かえってこの子に普通ではないと思わせることになったのではないだろうか。ユニカを守るということは、この子が授かった力を隠すことなく生きていけるように、剣になり楯になり、ともに戦ってやることだったのではないかと、今更思っているよ」
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