天槍アネクドート
二十シピルと親子の話(13)
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 王都アマリアで雪が舞い始めた頃、クレスツェンツは友人からの手紙を読んで、わなわなと震えていた。
 乱暴にお茶の入ったカップを置き、髪をセットしている途中だと言うことも忘れて立ち上がる。
「ええい! 娘の自慢話ばっかりしおってっっ! いったいいつになったらアマリアに連れてくるのだ! これでは“ユニカ”がどんなに可愛いか、妄想が膨らむ一方だ!!」
 そして侍女たちには理解できないことを喚くと、握り潰しそうになっていた手紙も化粧台に叩き付け、鼻息荒く主室へと出て行ってしまう。
 どうしたのかと思いきや、机に向かい、引き出しから取り出した便せんに、早速何かを書き始めている。この手紙の返事だろうか。
「王妃さま……朝のお支度を……」
「十五分待ちなさい、侍女長。これも非常に重要な案件でね。朝食を掻き込んで時間を詰める。もう準備して良い。冷めていても構わない」
「はぁ……」
 ぷんぷんしながらその怒りを便せんにぶつけるように、王妃はがりがりとペンを走らせ始めた。
 エリュゼは王妃が置き去りにしたお茶のカップを持ち上げながら、ちらりと手紙を盗み見る。
 何度か聞いた“ユニカ”という名前。友人の娘だと言っていたが、何故そんなにクレスツェンツの興味を引いているのかが気になる。
 まぁ会うことはないだろうけど、と思いながら、彼女は侍女長に諫められる王妃の元に、新しいお茶を運びに行った。




(20130105)

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