天槍のユニカ



春の在り処は(2)

 ところが、図書室へ足を向けた二人をクリスティアンが呼び止めた。
 振り返ればあとをついてきていた騎士の顔が一つ増えている。何が楽しいのか分からないが、今日もどこかにやけているルウェルだ。
「王太子殿下が王都へお戻りになるそうです。その足でこちらへいらっしゃると」
 都の外へ出掛けていたディルクの傍付きの騎士が現れたのだから、そんなことだろうとは思った。そして、わざわざそれを伝えられるということは、彼はユニカに会いに来るのだろう。
「……どこで待っていたらいいの」
 「おかえりなさい」くらいは、言ってもいいか。
 少し考えたのち、ユニカはそう思った。

     * * *

 好きなところで待っていればいいと言われたので、ユニカはエリーアスが以前連れてきてくれたくるみの樹の中庭を選んだ。
 そろそろ花期を迎えるくるみの枝はみずみずしい大きな葉で覆われており、庭の中に濃い陰を作っていた。一方で、あの時は土がむき出しだった花壇には眩しいほど色とりどりの花が咲いている。ユニカはこの間のように庭へ降りる階段に腰掛けた。
 誰の子か分からないが、相変わらず施療院には子供の姿が多い。ここにも花を摘んだり虫を探したりして遊んでいる子供が片手の指では余るほどいて、その中の三人がエリュゼと顔見知りだったらしい。
「エリュゼだ! 久しぶり!」
「今日はきらきらしたのをいっぱいつける日?」
「ねー、秋に埋めた<Aネモネがみんな咲いてるんだよ! 見に来てよ!」
 あっという間にエリュゼにまとわりついてきた彼らは、その小さな手で容赦なく彼女の腕やドレスを引っ張った。
「埋めた≠カゃなくて植えた≠ニ言うのよ。それに残念だけどお仕事中なの、また今度ね」
 一つ一つの手をやんわりと離しながらエリュゼが言うと、相手をしてもらえないと悟った子供達は一斉に不満のうなり声を上げた。

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