『娘』の真偽(11)
「辛そうだ」
「効くお薬があれば、もう少し楽にして差し上げられますのに……」
出血の落ち着いたユニカはすぐに熱に浮かされ始めた。そこでティアナは解熱剤を用意したが、それを見ていた侍女のフラレイが呆れた様子で言ったのだ。
『ユニカ様にお薬なんて効きません』
『効かない? なぜ?』
『毒が効かないんですもの。お薬と毒は使う目的が違うだけで同じものだと聞きます。じゃあお薬も効きません』
侍女が言った通り、ティアナが飲ませた薬は一向に効く気配がない。仕方がないので、ディルクとティアナは苦しそうにあえぐユニカの傍に交代でつき、汗を拭ったり、量を与えれば少しは効果があると期待して薬を混ぜた水を与え続けている。
「死なないというのも大変なものだな」
「さようでございますね……」
ディルクはもう一度灯りの礼を言ってからユニカの枕元へ戻った。眠る彼女が眩しくないように場所を考えて燭台を置き、再び拝借した本を開く。
「う、んん……」
すると間もなく、シーツを掻きむしりながらユニカが呻いた。寝返りを打とうとしたが思うように動けなかったらしく、少しもぞもぞと身体を揺すったあと、諦めの溜め息を残して彼女は大人しくなる。
ディルクは本を置いて寝台の縁に座り、ユニカの頬に貼り付いた髪をよけてやる。体温が上がっているせいか彼女から漂ってくる香りは一層強い。思わず口づけたくなるような魅惑的な香りだ。
ユニカの額や首筋に浮いた汗を拭っていると、いつの間にか彼女は目を開いていた。ぼんやりとした無防備な視線で、それでもしっかりとディルクを見つめている。
構わず汗を拭いてやると、枕元に力なく投げ出されていた彼女の手が不意に持ち上がった。
震える手はディルクの左頬をなぞって髪に差し入れられ、さらさらと耳の上あたりを這った。
払いのけたくなる、女の指の感触。
ディルクはそれをじっと我慢し、口許に笑みを貼り付けたままユニカを見下ろす。
しばらくユニカにされるがまま髪を撫でられていると、彼女の腕は力尽きたように寝台の上に落ちた。
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