天槍のユニカ



レセプション(13)

 王とディルクの対面に列席した大貴族達の様子を見ると、各々が少なからず動揺しているようだった。貴族に限らず王城の中に勤めるあらゆる地位の者達は、突然舞い込んできた隣国からの風をどう扱えばよいか分からず困惑していることだろう。
 恐らく、彼女≠烽ワた。
「それにしても、さっきのあれは惜しかったですね」
「ストールの落とし主のことか?」
「この城に入って、ほかに面白いことがありましたか?」
「まだストールを落とした彼女が『天槍の娘』だとは確認出来てないだろう」
「いいえ、違いありません。あれは王の寵愛を受けている者に相応しい品でした。そういえば、ストールを取りに来た娘は落とし主ではなかったんですよね?」
 エイルリヒにも言わなかったのだが、ディルクの様子から彼はそのことを察していたようだ。
 ストールを受け取りにきた娘と、窓辺に現れたあの娘は違う。髪色や年齢などの外見は確かに似ていたが、衣装の色も違うし、なにより女官の娘からはストールに染みついている香りがしなかった。
「まあ、王家の財で養われながらあの平凡さでは、天槍の謂われが真でも偽でも失望します。どう見てもその辺にいる貴族の娘でしたからね。きっと、彼女≠ゥらはもっと特別な気配がするはずです!」
「お前、今日は本当にはしゃいでるな……」
 いつも以上に一言も二言も多い弟に呆れ、ディルクはエイルリヒから身体ごと顔を背けた。
「それで、一瞬見えた彼女≠ヘどんな娘でしたか?」
 背を向けた兄の背中に取りつき、まるで幼い子供のようにディルクの肩に顎を乗せるエイルリヒ。
「なかなか美人だった」
「兄上……それはいいんです。ちゃんと娘の特長は覚えていますか?」
「覚えてるさ」
 肩口に乗っていたエイルリヒの頭をわしわしと掻き回して追い払うと、ディルクは式次第を置いてテーブルに広がっていたもう一枚の紙を眺めた。
「会えば思い出す」
「……それを覚えているとは言いません」
「大丈夫。なかなか強烈な瞳だった。会えば、すぐに分かるよ」

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