天槍のユニカ



ある少女の懺悔−火種−(2)

 あの日、ユニカが知る限り村の中に死者は一人もいなかった。死んだ者の亡骸はアヒムの指示によって村の外にある墓地へ速やかに運ばれていたからだ。
 そして火災の原因になった雷は多くの者に目撃されている。エリーアスもその情報を太守から得て王妃とともに村へ来た。
 その雷を呼び寄せたのがユニカであるかも知れないと、エリーアスは思ったはずだ。
 何故なら、ユニカの両親が死んだ時にも同じ現象が起こったから。
「私がみんなを殺したのかも知れないって、エリーはずっと思っていたんでしょう。だから確かめなかったんでしょう。――私も言えなかった」
 本当のことを知ったエリーアスが、唯一残った家族のような彼が離れていくのが怖かった。
 だけど黙っていても楽にはなれなかった。エリーアスに知られる日が来るのではないかという恐ろしさ、真実を隠して彼を中途半端につなぎ止めている苦しさがあった。
 重い枷をおろす日が来たのだ。
 そうして、一人きりになる日が。
「導師様の日記には、病の知らせを持ってきたのはエリーだって書いてあったわ。あの年の三月……あの時からもう、病は西に向けて広がっていたのね」
 エリーアスは顔を背け、ユニカの声を拒もうとしている。
 過去は、そんな彼をさらに遠くへ突き放すだろう。
「でも、村が燃えてしまったのは病のせいではないの。私のせいだったの」
 ユニカは目を閉じ、懐かしい悪夢をゆっくりと記憶の底からたぐり寄せ始めた。
 ユニカが覚えているのはほんの少しのことだったが、養父の日記にはその記憶を補うに十分な記録が残っていた。
 記録だけではなく、彼が何に苦悩していたのかも。
 ユニカは王妃から遺された養父の形見をすべて読み、悪夢から何年も経ったあとに色々なことを知った。

     * * *

 ラベンダーはポプリにしてもいいし、虫除けや傷を消毒する薬になる。よい匂いで心が安らぐし、刺繍の柄にしても可愛いので本当に万能だ。
 おまけに養父のアヒムもお気に入りの花。

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