『娘』の真偽(7)
国政に口を出すわけでもなくただ城の端に住み着いているだけなら、ティアナが仕える王子の将来の妨げにならない限り放って置いてもよい存在。
エイルリヒからの手紙にあんなことが書かれていなければ、ティアナはさしてこの娘に興味を抱かなかったのに。
「本当に不死なの……この方は」
ぞっとした。人は怪我によって、病によって、老いによっていつかは死ぬ。それは覆ることのない真実だし、誰にも通ずる理(ことわり)だった。だからユニカの噂も信じていなかったのだ。
しかし、それが通用しない人間がいるのか。
ティアナは上着を脱ぎ、それでユニカの身体を隠すと、主室へ繋がる扉を開けた。
「どうだ?」
自分では気がついていなかったが、ティアナはうろたえていた。ディルクに問われてもすぐには言葉が出ず、一拍おいて噛み締めるように言う。
「出血は止まっております。とても先ほどできた傷とは思えません。縫わなくて正解ですわ。どうぞご確認を」
エイルリヒは嬉々として寝室に飛び込んできた。あとに続くディルクも口許が弛むのを隠せていない。フラレイは二人の様子に気づかないほど、こちらもやはり興味津々といった様子でついてきた。
ティアナはそっと上着の端をめくり、ユニカの胸元にある傷を見せる。
ディルク以外の二人には、いくらか治った状態だということが分からなかったらしい。エイルリヒはきょとんとしながら傷を見るだけで、フラレイはその生々しさに堪えかねて顔を背けた。
「普通なら、とうにこときれていてもおかしくないほどの傷です」
ティアナが眉根を寄せながら言うとディルクは得心した様子である。
「あとのことは二人に任せますね。フラレイ、顔が真っ青ですよ。外へ出ましょうか」
エイルリヒはフラレイを気遣うふりで寝室を出て行った。微かに笑みを浮かべているのは彼女を安心させるためではない。
二人がいなくなったのを気配で感じると、ディルクはおもむろにユニカの枕元に手をつく。そして寝台の縁に腰掛け、彼女の長い黒髪を一筋すくい上げる。
それだけでふわりと香る、どこか官能的で上品な匂い。この娘に似合っていると思った。香水を与えたのは王だろうか。
「会えて嬉しいよ……ユニカ」
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