天槍のユニカ



いてはならぬ者(6)

 ティアナはさして親しい相手ではなかったが、リータは面白いことを求めて彼女のあとをついてきた。
 しかし案内された温室は王家の空間だった。自分たちのような女官だけで立ち入れる場所ではない。
 少し不安になりながらも、リータはお茶の用意がされた四阿に座り、何も訊かず待つように言うティアナに従った。そうしている内に現れたのが、立儲(りっちょ)の礼を終えてシヴィロ王国の世継ぎになったディルクだったのだ。
 思わず立ち上がって彼を迎えるが、ディルクが四阿の屋根の内に入って来ると、胸が高鳴るあまり気が遠くなった。
 ふらり、とリータが後退ったのに気がつき、ディルクは素早くかつさりげなく、リータの腰に腕を回しながら一緒に大理石の椅子に座る。
「また会えた」
 耳許で囁いた彼の唇が、そのまま頬に触れる。動転しているリータにもはっきりと分かるほど腰に回されたディルクの腕の力が強まる。行き場なく胸の高さでさ迷っていた手が優しく握られる。
 これは夢でしょう?
 リータが気を失いそうになっている内に、そっと唇を塞がれた。二、三度吸いついてきた柔らかい感触に呆然としていると、目の前に青みを帯びた緑の双眸が現れる。それがディルクの瞳だと気づき、リータは口をぱくぱくさせて何か言おうとするがまったく声が出せない。
 するとディルクは後ろめたそうに声を低めて言った。
「すまない。嫌だっただろうか」
 我に返ったリータは激しく首を振って否定した。しまった、もう少し恥じらいを見せた方がよかっただろうかと打算を働かせるが、ディルクがほっと息をついて微笑んだので、その甘やかな笑みに再び思考を奪われる。
「殿下、わたくしを覚えていてくださいましたの……?」
「もちろん。私が城へ入った日にドンジョンへ忍び込んでいた子だ。あのあと叱られていないかと心配していたが、大丈夫だったようだな」
 わざわざ調べてくれたのだろうか。リータの胸は喜びできゅうっと締めつけられる。
 まったく相手にされなかったと思ったのに。そうか、あの場ではどうしようもなかったのだ。こうしてストールの持ち主のユニカではなくリータを探し出してくれたのが何よりの事実。

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