願いごと(20)
しかし、それはディルクの望みをまったき形で叶えることにはならないのだ。
加えて、こんな時に届いた手紙はさらにディルクに顔を顰めさせた。
書簡は王からで内容も別段変わったことはない、定期的な連絡である。ただ、届いた経路が問題だった。これは王太子領を経由せず直接ここへ届いた。
王は、ディルクがゼートレーネに出入りしていると気づいたらしい。それを咎める文言は一つも書かれていないが、よく思っていないからこそゼートレーネへ直接手紙を寄越したのだ。
警告の意味もこめて。
(時間切れだな)
警告に従い、ここは一度王太子領へ戻って手を考えた方がよさそうだ。
「それはそうと、明日の朝には発たなきゃいけなくなった」
「え!? 昨日帰ってきたところなのに?」
「仕方ない、仕事だ。ユニカに伝えてくる」
王に見つかったことはもちろん言わないが、どんな顔をして会ってくれるだろう。
アマリアへ戻った時、同じ場所に帰ることが出来たらいいのだが。
そうすれば、エイルリヒだってユニカを危険な目に遭わせづらくなる。
大切なものは自分で守らなくてはいけない。今度こそ。
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