現代パロディ@
ネタが無かったので!ついに!走ってしまいました現パロ!以前ブログで書いた、ユニカが大学生になって…というアレです!!この所帯じみた会話とか……シリーズ化したら、どうしよ……っっ


 自宅の最寄り駅のホームでは、同じ大学に通う学生達がわっと電車を降りた。どれも知らない顔ばかりだが、皆同じ雰囲気をまとっているし、持ち物もよく似ている。各々のおしゃれな鞄に、ノートや教科書、プリントの類が詰まったプラスチック製の手提げを持って、携帯電話を片手に音楽を聴いていたり、似たような顔つき、雰囲気のグループで固まりわいわいと喋っていたり。
 その同世代の集団から逃れるように、ユニカはそそくさと改札がある上の階へ駆け上がり、エスカレーターもとんとんと登って地上へ出た。地下鉄で通学をはじめ早二ヶ月。けれどまだ慣れない。大学生の集団というのは、なんだか独特の雰囲気を持って一つの塊を形成している気がする。ユニカはどうも、そこへ上手く馴染めていなかった。電車という閉鎖空間の中では、尚のこと自分が浮いている気がして落ち着かない。
 夕暮れ時の空を見てほっとし、ユニカは地下鉄出口のすぐ向かいにあるスーパーマーケットへ脚を向けた。彼女と同じように、このスーパーで買い物をして帰る学生も多い。彼らに先んじて店へ入ろうと思っていたユニカは、信号を待っている内に肩を叩かれ飛び上がるほど驚いた。
「ごめんごめん、先に声を掛ければよかったね」
 後ろにいたのは、ひらひらと手を振り、眉尻を下げて笑う養父だった。同じ電車に乗っていたらしい。気がつかなかった。
「お帰りなさい、先生」
「ユニカもお帰り。買い物して帰る?」
「はい」
 養父はユニカが通う大学で准教授をしていた。この春からユニカが同じ大学に通い始めたのをきっかけに、養父の実家から大学まで二駅のこの辺りへ引っ越してきて、今は二人暮らしである。
 養父は仕事が忙しいので、食事の用意をするのはたいていユニカだった。故に買い物担当もユニカである。
「今日はお仕事終わるの早いんですね。先生と帰る時間が同じになるのはじめてです」
「うん、でも代わりに明日は朝早いんだ。朝ご飯、私の分は作らなくてもいいよ」
 頷くと同時に信号が青に変わり、二人は人並みに押されるようにしてスーパーの入り口までやって来た。さすが夕方だけあって、主婦も学生も買い物時。地下鉄の駅から出てきた人々は、皆店の中へ流れ込んでいると言っても良いくらいだ。
 買い物カゴを調達すると、ユニカは養父と二人で仲良くカートを押しながら売り場へ回った。朝食の果物とパン、せっかく養父がいて荷物を持てるので、じゃがいもやたまねぎなどのちょっと重たい野菜もカゴに入れる。卵と牛乳はまだ大丈夫……本題はこのあとだ。
「先生、何か食べたいものはありますか?」
「うーん、何でもいいよって言うと、ユニカは困よね」
「困ります。お肉かお魚か、和食か洋食かだけでも選んで貰わなくちゃ」
「お腹減ってるから本当に何でもいいんだけどなぁ……」
 そう言う養父は、通り過ぎた総菜コーナーに揚げたての天ぷらが並べられていくのをちらりと見遣る。
「揚げ物にしますか?」
「買っていくの?」
「うちで作ります」
「いいね。一緒に作ろうか」
「はい」
 ユニカはぱっと瞳を輝かせた。養父の手が空いている時は一緒に料理をすることもあるが、これがまた楽しい。この頃はユニカの方が手際もいいくらいだが、小さい頃、もの凄く心配そうな養父に見守られ初めて野菜を切ってみた感動なんかは、今でも忘れられない。そう言う記憶のせいか、養父と並んで食事の用意をするのは好きだった。この頃そんな機会が減っていたので尚更嬉しい。
「あ、じゃがいも買うし、コロッケはどうですか?」
「ああ、家で作るのは久しぶりだしね。つぶしてころころ」
「つぶしてころころ。楽しそう」
「じゃあ、あとは挽肉を買っていかないとね」
「そうですね」
 二人はあいあいとしながらカートを転がし、ありそうでなかった、平日に二人で買い物をして帰るという時間を、ささやかながら楽しんだ。


 明けて翌週。
 講義で学生達に配る資料をコピー機にかけながら、アヒムはひと月後に迫った前期末の試験について考えていた。早いものである。先日ユニカがこの大学に入学してきたと思ったのに、もう夏休み前の戦争のような二週間について考えねばならない。
 ユニカも初めての試験が迫りつつあることに緊張しているらしかったが、まぁ日頃から勉強しているようなのでうちの娘は大丈夫だろう……問題は、自分が抱えている学生の中で、単位をやってよいものかと迷うレベルの子供がいることで……。
 教務課は成績をつけるにあたって甘い判断をするなという一方で、単位を落とす学生が多いのは問題ともしている。補講をしたり追加課題を出して、こぼれる学生がいないよう最後まで付き合わねばならないというのは、結構面倒くさいものだ。
 ここで考えていても仕方の無いことだなと思いながら溜め息を吐いた途端、背後から忍び寄っていた嫋やかな指先で、ぎゅっと頬を抓られた。
「いたっ」
「うふふ、隙が多いぞアヒム」
 アヒムが振り返っても、彼女はまだ指を放さない。うりうり、とかよく分からない擬態語を発しながら、頬を引っ張ってくる。
「ちょっと面白い噂を学生に聞いたから、お前に教えてやろうと思ってきたんだ。耳に入っているかな?」
「どんな噂ですか? クレスツェンツ先生」
 アヒムに払い除けられて、彼女はようやく手を放す。その手を腰に当て得意げに踏ん反り返ったこの女性は、アヒムの先輩でもあり同じ学科で臨時講師も努める大学理事長の妻女、クレスツェンツだ。個人的に事業も抱え、今はこの大学に看護学部を設立しようと燃えに燃えて暗躍(?)しているキャリアウーマンだった。
「『グラウン先生って、一回生の女子と付き合ってるっぽいよ〜!』『あ〜知ってる〜! ○○駅前のスーパーで一緒に買い物してるとこ見たぁ!』『何それ! 一緒にご飯作るってこと!? まさか同棲!?』『え〜ショックぅー!』 という感じの会話を休み時間にしている女子達がいてな? お前、ユニカと一緒に夕飯の買い出しでも?」
 初めはクレスツェンツが奇妙に裏返った声を出すものだからきょとんとしていたアヒムだが、徐々に彼の顔は引き攣った。コピーが終わり、ピーッと甲高いアラームが鳴っても、彼は動かない。
「印刷が終わったようだぞ?」
「そ、それ、いつ、どこでお聞きに……」
「今日の三コマ目。二回生の多い講義だったが。ユニカが新入生だと言うことはバレているようだなぁ。ふふふ、同棲じゃなくて同居だから何もやましいことはないのだけれど、わたくしから説明してよいものか迷ったから、『まぁ、グラウン先生も独身だからな……』とだけ言っておいたよ」
「誤解を加速させることを言ってどうするんですか!?」
「面白くて、つい(笑)」
「つい(笑)、じゃありません!」
「だから『隙が多いぞ』と言ったではないか。学生も利用する近所のスーパーでいちゃいちゃしながら買い物などすれば、お前達がただの教員と学生の間柄でないことはバレるに決まっている。そこにわたくしも呼んで三人で買い物して、ついでに夕飯も三人仲良く食べれば怪しまれもせずまったく問題は起きなかったのだ! 今度からはそうするがいい、ふん」
 ニヤニヤ笑っていたかと思ったら突然怒り出し、そう言い捨てるとクレスツェンツは印刷室を出て行った。多分、最後の言葉辺りに彼女の本音が隠れている。
(ああー……でも、)
 まったくクレスツェンツの言うとおりだった。改札を出たところで娘の後ろ姿に気づき、ついつい嬉しくなって追いかけてしまったが、周りに大勢の学生の目があることを気にしなかったのは完全にアヒムの落ち度である。
 娘が受験・入学してくることは教務課に伝えた上で、学部が違うのでよしという許可は勿論貰っていたが、何となく親子関係は公表していない。というか、わざわざ説明せねばならない相手もいなかったので、誰にも言っていないだけだ。
 ユニカとアヒムが親子であることを知っているのは、教務課と、友人でもあるクレスツェンツくらいだった。
 誰にも知らせていないことでまさかこういう事態が発生するとは思いもせず……。
 アヒムはコピー機から資料を取り出しながら項垂れる。
 ど、どこかで弁解するチャンスはないだろうか……、と必死で考えるが、噂の真相を本人に確かめてくれるケースなど稀だ。
「ちなみにわたくしが思いついた『これ以上噂を広めないためのよい方法』を教えてやろうか」
「うわ!?」
 出て行ったと思ったクレスツェンツが、細く開いたドアの隙間から、きらりと光る目を覗かせていた――


(あっ続くね!続いちゃいますねこれ!(>_<)すみません!)



20140113

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