君の名前が思い出せない | ナノ


ゴッドエデンの森のほとり。僕はたったひとりでそこに佇んでいた。


「……」


そして今日もまた虚無感に襲われる。何をしても虚しくて、何かが欠けているような、そんな感じ。いつからだろう。曖昧な記憶を辿っても欠けていた其処に何があったかはっきりと思い出せない。

誰と話す事もない。思い切り笑う事もない。僕が送っていたのはそんな毎日だったっけ?いいや違う。僕は確かに光を見た。ずっと塞ぎ込んでいた僕に光を見せてくれた人がいた。力強くて光を放つように意志の強い瞳。


「君は誰……?」


なんて呟いてみても言葉は誰に届くわけでもなくただただ風に流されて、ザワザワと揺れる木々の葉が僕を嘲笑うかの様に音を立てた。

僕の思い違いだろうか。光を見たいと願い過ぎた僕が描いた空想だったのだろうか。

そう思った瞬間、目の前に白い光が舞った。その光に包まれながら此方を見て微笑みかける少年。


「シュウ」


伸ばされたその手を掴む。その手から伝わる温もり。………ああ、なんだ。やっぱり僕が見た光は幻なんかじゃなかった。現に今、目の前にいるじゃないか。


「一緒に行こう、シュウ」


ふわり、また彼が微笑んだ。どうして君の事を忘れる事が出来たのだろう。彼はこんなにもあたたかいのに。


「うん」


僕は握られた手をギュッと握り返して歩き出した彼について行った。目の前には吸い込まれそうな蒼茫。いつぶりだろう、此処で君とこの景色を眺めるのは。



………いつぶり、だろう……?



ふと周りの景色が消えて真っ暗な闇に包まれた。目に映る君の手を握っていたはずの僕の手も闇が纏っている。


「………シュウ」


それでも君は、君だけは揺らがない光を放っていた。


「俺はずっとお前を思っている」

「やだ…待って……」


やがて彼は微笑んだまま、光の中へと吸い込まれて行く。その光は僕には眩しすぎて。


「だからもう安心しろ」







おやすみ。







最後にそう言った彼の顔。



それは、あの日僕が此処から君を突き落とした時に見せた顔と同じだった。










「行かないでよ……」










結局僕はまた成仏なんか出来ないままこの暗闇の中君の光を探し続けるんだ。












君の名前が思い出せない
(もう何度目の)
(喪失感)






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君の名前が思い出せない=思い出せなくなってしまう位幾年もの月日が経っているという事。

ループ?
忘却様に提出。






(120925)


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