「勉強頑張ってね」


ただそのひとことを言い残してどこかへ行ってしまったフェイ。練習にでも行ったのだろうか。まぁフェイは受験なんて関係ないから勉強だって多分必要ない。それは私の勝手な偏見かもしれないけど。気楽でいいなぁ。思わずそんな事を口走ってしまう。


『ああ駄目駄目、私は勉強に集中しなくちゃ』


……ってもう何度そう自分に言い聞かせただろうか。好きなアーティストがTVに出た時、友達とメールしてる時、サッカー棟から皆の声が聞こえて来た時、フェイと一緒にいる時。数えてみればきりがないけど、それ程に受験生には敵とも言える誘惑が沢山あるのだ。まぁそう考えてみればフェイがどこかへ行ってしまったのは勉強に集中していいよと神様が仕組んでくれた事なのかもしれない。

私は手に持っていたシャーペンを机に転がし思い切り伸びをした。それからずっとシャーペンを握っていたせいで出来たペン胼胝を見つめ溜め息をつく。


『勉強飽きちゃったなぁ』


さっき自分に言い聞かせたばかりなのに意志の弱い事。私は自分で自分に嘲笑してから机に突っ伏せた。

放課後の教室には私以外誰もいない。受験前だからって皆塾とか家庭教師とか、自分に合う環境で勉強している。私と言えば塾にも行かず家庭教師も付けず、自力で学習だ。そりゃ勿論先生は教えてくれるけど……あ、何か眠くなって…───







***







「────…、…」

『…ん』


あれ、誰かの声がする……誰かの…


「名前!」

『わっ!?』


朦朧とする意識の中、耳元で大きな声を出されて思わず上体を起こせば目の前には腰に手を当てて仁王立ちをしたフェイがいた。


『フェイ、何でここに…』


片手にぶら下がっているコンビニの袋らしき物を見ればどうやら練習に行っていたわけじゃないことは分かるけど、一体何を買って来たのだろうか。私は一度欠伸をしてから瞳を擦った。


「せっかく差し入れに買ってきたのに」

『差し入れ?』


まだ眠そうにしている私の机の上に袋からひとつひとつ取り出して並べていくフェイ。並べられたのは、合格しますように。合格祈願。桜咲く。色々なレパートリーで受験生に向けての応援メッセージが書かれたお菓子ばかりで。わざわざ買ってきてくれたのかと視線を送ればフェイは小さく溜め息をついて私の席の前に座った。


「でも……勉強してないんじゃなぁ」

『う…』


それからぼそりと呟かれたその言葉に思わず黙り込むしかなかった私。確かに勉強してないんじゃあご褒美なんてもらえない。今頑張っちゃえば後は楽なんだって分かってはいるけれどどうもやる気になれないというか、今日に関してはもう集中力も切れてしまっているわけだし……

目の前に並ぶ美味しそうなお菓子の誘惑と勉強をしなければいけないという苦悩に板挟みにされ唸る私を見てしばらくした所でフェイが口を開いた。


「そんなにやる気出ないの?」


うーん。と何か考えながら席を立つフェイ。それから私の机の真ん前まで近付いてきてゆっくりと私の顔を覗き込む。


「じゃあ、」

『…っ』


一瞬目の前まで来てからまた離れていったフェイの顔。その下まつげの長い瞳と視線が交錯して一気に眠気が覚める。えっと、今……

私が状況を理解したころには遅く、フェイは最後にニヤリと微笑んだ。









「これでやる気出た?」












頑張れ受験生!
(応援してるよ)
(名前なら出来る)




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受験生の皆さん応援しています。




(130122)



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