図書委員会。何故この委員になったかというと、まぁ率直に言ってジャンケンに負けたからだ。でも図書委員の仕事内容を見てみれば週に一度昼休みに図書室の受付を担当するだけ。仕事は楽なんだけど……


『……』


私は横目で本を片手に難しそうな顔をしている皆帆君を見た。彼も私と同じ図書委員で、毎週水曜日私と一緒に受付カウンターに座っているのだけど、言ってしまえば私は彼がちょっと苦手だ。皆帆君との接点といえばこの委員会しかないわけだし話した事も片手で数えられるくらい。何となく話し掛けにくい雰囲気が漂っているというか。そんな事を考えながらも何を読んでいるのだろうかと皆帆君の持っている本のタイトルに目を凝らしていた所で彼がふと口を開いた。


「どうかしたのかい?」

『えっ?あっ、いや…』


まさか気づかれてると思っていなかった私は思わず声が裏返りそうになるのを堪えて笑顔を作ってみせた。だけど皆帆君は本から顔を上げたわけではないと知り一人恥ずかしくなってもごもごと口籠もってしまう。それから少しでもこの妙な緊張感を解こうと図書室を見渡してみると皆帆君同様に黙々と本を読んでいる生徒が数名。そんな光景を目にしては皆本が好きなんだなぁ、なんて図書委員らしからぬ感想がぽっと脳裏に湧き出した。

時計に目を向ければ授業開始の予鈴が鳴る数分前。ついにやることの無くなってしまった私はいっそのこと早く鳴って欲しいと強く願いながら近くにあった本を一冊手に取ってみた。端から読むつもりはないけど少しでも気を紛らわすため、そう思っていたのも最早逆効果。私が本の表紙を眺めていたら皆帆君が興味深そうな視線を寄越した。


「ブラウン神父」

『え?』

「ブラウン神父シリーズだよね、君が読んでるの」


ブラウン神父シリーズ。何の事だか分からないけどどうやら私が手に持っている本のシリーズの名前らしい。へえ、だなんて小さく声を漏らしている彼は推理ごっこでもしてるのだろうか。さっきまでの真剣な顔付きと打って変わって楽しそうな表情で近付いてくる。


「君も好きなんだね」

『あ、いや……あの、』


どうしよう、今更ただ読んでいただけだなんて言いにくい。とりあえず頷いておくべきか。私はどっちとも取れるような曖昧な返事をしてこの場から逃げるように、いや、皆帆君から逃げるように本をしまって椅子から立ち上がった。

鳴れ、早く、チャイム、鳴って。


「待って、もっと話そうよ」


早く…──


「……あ、予鈴だ」


危うく腕を掴まれそうになった所で聞き慣れた鐘の音が鳴り響いた。良かった。だけどほっと安堵したのも束の間、いつのまにか私より高い位置にあった皆帆君の笑顔に不意に心臓が高鳴った。






「また来週ね」






ボーダーラインは見えているか?
(また来週)
(毎週水曜日の合言葉)



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初イナギャラ。皆帆君難しい。


∵レイラの初恋
(130608)



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