ふと思った事、お腹空いただとか眠いだとか。そういった言葉は普段何気なく声に出しているだけであって、だからどうしろと相手に何かを求めているわけではない。だけど一緒に帰っていたフェイは何を思ったのか私の言葉に興味を持ったようで。


「今何て言った?」

『え?』


二人で並んで歩いている帰り道の途中でいきなりこっちを向いて聞き返してきたものだから思わず私も聞き返す。別におかしい事は言った覚えないんだけど……


『さ…寒いね、って』


それだけだよと首を傾げてみればフェイは何かを考えるようにして前に向き直ってしまった。それから"寒い"の何がフェイの心に引っかかったのか分からないまましばらく無言が続く。

4月も下旬。部活が終わって家に帰る位の時間になるとちょっと前に戻ったような冷たい風が肌を掠めて寒い。ちらりとフェイを見てみればいつものオレンジの服。ブレザーを着ている私でさえ寒いのにそれだけで寒くないのかとも思ったけど……あれだ、きっとフェイは今さっきまでサッカーしてたから体が温まっているんだろう。そんな事を考えながら無言のままの帰り道をとぼとぼと歩いていた時だった。沈みかけた太陽が映し出す二つの影に視線を落とせば影がもぞもぞと動いている事に気付いた。丁度手のあたり。影がくっつきそうになっては離れて、またくっつきそうになっては離れて。手、繋ごうとしてるのかな?


『フェイ?』

「なっ、何?」


だけど小さくフェイの名前を読んだ所で影はパッと離れてしまった。だけどフェイ自身は私が地面に伸びる影を見ていた事に気付いていないらしい、笑顔を浮かべてあくまで何でもない風を装っている。目は泳いでるし喋り方も不自然なのになぁなんて、そんなフェイを見ていたら思わず笑ってしまいそうになるけど、『やっぱりなんでもない』そう言えば微かに赤くなった頬を隠すようにそっぽを向いてしまったフェイに愛しさが込み上げてくるのを感じた。

お腹空いただとか眠いだとか。そういった言葉はふと思いついて何気なく声に出しているだけであって、だからどうしろと相手に何かを求めているわけではない………普段なら。だけど、時にはその一言で相手に気付いてもらいたい事だってあるよね。


『…寒いね』


私は今も未だ知らないふりをしているフェイの手にこつりと冷たくなった自分の手を当てて笑ってみせた。








愛されアンジェリカ
(…もしかして気付いてた?)
(さぁ、どうでしょう)






-----------------------
イメージはうぶなフェイ。

∵ace
(130422)



<<