「ねぇ名前」

『……』

「何で怒ってるんだい?」


ホワイトデー。バレンタインの一ヶ月後にやってくる行事だ。恋人がいる人はまず彼女にバレンタインのお返しをするものなんじゃないのか。いや、朝起きたらすぐに私の所に来てなんて言わないけど、でも、流石に彼女の前で他の女の子と楽しそうにお喋りって、それはないんじゃないかと思うわけで。


「言ってくれなきゃ分からないよ」

『じゃあ勝手に頭の中でもどこでも覗けばいいでしょ』


あまりに無神経なサルにそんな悪態をつけばサルは驚いたようにきょとんとした。それから数秒の後まじまじと私の顔を見て微かに口角を上げる。

……ああほら、私の考えてる事なんて見えてるくせに。私はサルが意地悪をしているようにしか思えなくてつい目を逸らしてしまった。


「勝手になんて覗かないよ」

『うそ』

「うそじゃない」


レディに失礼だろ?なんて、いつも勝手に覗いてくるくせによく言うよ。それこそ調子のいいサルの足を思い切り踏んでやろうかとも思ったけど私が行動に移す前にサルが口を開いた。


「それに」


それからカツカツと廊下にヒールの音を響かせながら近付いてくる。一歩、また一歩と近付いてやがては私の足元を映す視界にその白いブーツが入り込んで、あっという間に近くなった距離に思わず顔を上げればサルはすぐそこで微笑んでいた。


「力なんか使わなくたって分かるよ」

『……っ』


そっと私の頬を撫でてから軽くキスをして、またふわりと笑顔を見せるサルに言葉が詰まる。


「名前にはとびっきりのお返しを用意してるんだから……ね?」


だから何も心配しないで。テレパシーを使わなくてもサルの表情から伝わってくる感情。いとおしいそうに私を見つめる瞳から溢れている愛。

サルは皆に敬愛されている。だからバレンタインに感謝の気持ちを貰う事は当たり前といえば当たり前なのだ。それに一人一人にちゃんとお返しをするのはサルの優しさ。私は些細な事で嫉妬していた自分を恥じてきゅっと唇を紡いだ。そんな私を見てサルがまた笑うもんだからやっぱり足でも踏んでやりたくなるけど、


「おいで」


今はサルの優しさに免じて大人しく手を引かれる事にしよう。







ポルボロンにレースを敷いて
(いつか力が無くなっても)
(通じ合える愛を育てていきたいと思うのです)






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ホワイトデー。皇帝様はおモテになるといい。




(130314)



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