別に彼女に「SARU」って言われるのが嫌な訳じゃない。むしろみんなそう呼んでるけど、名前には僕のことを名前で呼んでほしい。恋人ならちょっと特別な存在でいたいよね。 「君からは愛称じゃなくて、名前で呼んでほしいんだけど」 「……」 「恋人同士なんだからさ、そろそろ僕のこと名前で呼んでよ」 「えっ…と…」 「……はあ」 僕と名前は恋人同士になって日が浅い。その間何度も懇願してるのに、恥ずかしがってばかりで名前を呼んでくれない。なんでも恥ずかしがり屋の彼女にとって、好きな人の名前を呼ぶことはなかなか勇気のいることらしい。だからってそこで退くのも面白くない。そうなると意地でも呼ばせたくなる。そこで僕は、たまたま通路を歩いていた彼女を捕まえて壁際まで追い詰めた。あと、これには悪戯心もある。こういうこと、ちょっとやってみたかったんだ。 「緊張してる?」 「…う」 「ここ通路だよね。誰が通るかな?」 「…!」 「ふふ、可愛い」 耳元で囁くようにいうと名前の体がビクッと跳ねた。面白いなあ。僕がクスクス笑っていると、名前は「もう!」と真っ赤な顔で怒り始めた。 「SARU!」 「サリューだってば。僕は本当のこと言っただけだよ」 「は、離れて!」 「もう一回言おうか?君は、可愛い」 「やめてよぉ…」 声が次第に小さくなって、真っ赤に染まった顔を手で隠してしまった。だからそういうのが可愛いんだって。…とはいっても、最近は名前が何やってても可愛く見えるようになってきた。自覚してる、これは重症だ。 「全く、僕をここまで虜にさせるとは」 「…と…とりこ?」 「恋は、人を盲目にするって言うのは本当なんだね」 「…?」 僕の言葉に首を傾げている隙に、名前との距離を詰めた。お互いの体が密着したことで余計に慌て始めて、少し涙ぐんだ目で訴えてきた。でもそれは僕を煽ってるようなものだ。 「さて、どうしようか」 「もう離れて…」 「だったら、僕のことを「"サリュー"って呼んで」 「えぇ…」 「呼ばないんだったらずっとこのままだよ?」 「うー…」 「…それとも僕の名前を呼びたくないくらい僕のこと嫌い?」 「!…そ、そんなことない!」 「じゃあ、呼べるよね」 「う…ん…」 俯いて黙り込んでさまった名前を見て、少し罪悪感が過ぎった。…ちょっと意地悪し過ぎたか。あとで、謝っておこう。僕もこれ以上は何も言わないようにしようと黙って彼女を見つめていた。しばらく流れた沈黙の後、俯いていた名前が決心したかのように顔を上げ、僕を真っ直ぐ見つめてきた。そして、ぐっと瞑っていた名前の口がようやく開いた。 「……サリュー…」 「ほら、言えるじゃないか」 思わず笑みが零れて、名前の頭を撫でた。名前はほっとしたような表情をして、僕に体を預けてきた。うん、恥ずかしがり屋の名前がよく頑張ったよ。 「……」 「ドキドキいってる…」 「…そうかもね」 さっき名前を呼ばれて、僕の胸がドキリとしたのは、気のせいじゃない。名前を呼ばれるだけで僕までドキドキするなんてさ、困ったな…。 「……、」 一回言ってもらうだけで十分だって思ってたのに。もっとその声で僕の名前を呼んでほしい。たくさん聞きたい。そんな思いがどんどん溢れてくる。…また、名前を困らせることになるなあ。でもこの気持ちは、止められそうにないんだ。 「…ねぇ、もっと言ってよ」 「えっ?」 「僕の名前を呼んでいいのは、君だけなんだからさ」 もっと、聞かせて (その声で僕の名前を呼んで) ----------------------- 柚希様に相互記念でいただきました。こんなSARU君が理想です!というかもう柚希様の文が素敵すぎて…っ!ずっと尊敬しています!大好きです!これからもよろしくお願いいたします(^^) << |