*沖田さん転生
*微裏










幾度の時が経った時……必ず、逢いに行く……────



まただ。

また。京都から上京してきた頃からずっと同じ夢を見る。和服に身を包んだ寂しそうな誰かの後ろ姿が少女との別れを惜しんでいる。ぼんやりとしていてよく見えないがまるで自分に等しい存在のようにも見えるその後ろ姿が、綺麗に笑顔を作るその少女が、脳裏に焼き付いて離れないのだ。

そんな事を考えながら制服の袖に腕を通す平日の朝。いつも通り朝食を済ませ一人で暮らしているこのアパートを出た。

それから登校中も、授業中も、ずっとあの夢の事を考えていた。あの夢に出て来たのは自分なのか。だとしたらあの少女は誰なのか。




幾度の時が経った時……必ず、逢いに行く……



どうもあの言葉が気になって、俺は所属している剣道部の練習を休み少し離れた所に暮らす叔父の実家に向かった。あの夢が何なのか自分の先祖を辿っていったって分かるはずがないだろうけど、何処か欠けているような、そんな気持ちのままで居るのは気が咎めたから。


『ちょっと黄名子ちゃん待って〜』

「早くするやんね〜」


河川敷を通り病院の近くにある叔父の家。叔父の家に向かう途中でふと下校中だろう少女達のはしゃぎ声が聞こえてきた。


「そんなんじゃ雷門のマネージャーは務まらないやんね」


…………?

らい…もん……何処かで聞いた事のあるような………


『ま、待ってって………、きゃっ!?』

「!」


聞き覚えのある言葉に意識を持っていかれそうになった瞬間誰かにぶつかった。その拍子で足元をふらつかせた少女を反射的に支えると、ふわりと懐かしい匂いがした、ような気がした。とりあえずぼうっとしていた事を謝るべく彼女の体勢を整えて向き直る。


「すまない、大丈夫……か……」


が、思わず言葉を失った。彼女も同じように俺を見た瞬間言葉を失っていた。初めて合ったはずなのにどことなく感じる懐かしさ。雷門。さっき不思議に感じたその言葉も、俺は一度耳にしていたのかもしれない。どこで?

いつだ?………昔?




幾度の時が………




「……うっ!」


途端に頭痛がした。奥の方がチリチリと焼けるよう痛みに頭を抑えうずくまる俺に、彼女が心配そうに声をかけてくれるのが微かに聞こえる。俺の名前を呼んでいる。

俺の名前を……呼んで……───────








幾度の時が経った時……


誰だ。誰なんだお前は。どうしてそんなに悲しそうな声で……


総司…さん


……っ、この声は……さっきの………。


幾度の時が経った時、必ずお前を探して逢いに行く。


………ああそうか。俺は、俺には大切な人がいたじゃないか。生まれ変わっても絶対にと契りを交わした人が居るじゃないか。お前は俺であの人は俺の大切な人。忘れる事なんて出来るはずない、俺は………









愛してる









「───……名前…」


目が覚めて視界に入ってきたのはやけに白い天井。部屋に差し込むオレンジの夕日。確か俺はさっき倒れたんだ……誰が病院に………あ。ふと、点滴の落ちる音に混じって誰かの寝息が聞こえてくる。視線を其方の方にずらしてみるとベッド脇の椅子に座りながらすやすやと気持ち良さそうに眠る彼女がいた。


「………」


もしかして、俺を心配してずっと傍にいてくれたのだろうか。俺はしっかりと握られている右手を優しく握り返してみた。


『…ん……』


微睡んだ様子でゆっくりと目を開ける彼女。夕日に縁取られて綺麗に彩られるその唇が動き始める。確かに交じり合う視線の先の瞳は今にも涙で隠れてしまいそうな程。


『総…司……さん…?』

「名前」

『きゃ…っ』


俺は恐れながら俺の名前を呼ぶ彼女を引き寄せ全力で抱き締めた。

最後に抱き締めた時と何も変わらない。懐かしい匂い、懐かしい声、懐かしい体温。やっとだ、やっと……


「やっと逢えた」


そう言って抱き締める腕に力を込めると、彼女は声を上げて涙を流し始めた。


「名前…泣くな」

『だって…総司さ…うっ、うぅ…』


ぽろぽろと溢れ出す涙を拭い、また拭い、だけど止まることのない涙に俺は思わず顔が綻んだ。わんわんと泣いて、子供みたいだ。


「ほら、泣き止まないと……」

『ふ…、っ!』


俺はそんな彼女の唇を塞ぐように自分の唇を重ねてみせた。

直ぐに離してはまた重ねて、を何度か繰り返してから隙間に舌を割り込ませれば彼女の肩がピクリと跳ねる。


『総司さ…っ、んぅ』


そのまま彼女をベッドの上へと組み敷いた。履いていたスリッパはベッドの下に無造作に散らばり、最初こそは彼女も吃驚していたが次第に俺に応えるように一生懸命舌を絡ませてきた。暫く彼女とのキスを味わってから首筋、胸元へと口づけをしていく。


『あっ、総司さん、だめ…』

「静かに」

『ひゃ…う…っ』


好きだ。愛してる。名前が未来に帰ってしまったあの日から今日再び巡り逢えた瞬間までの幾年分、伝えられなかった言葉を伝えてもいいだろうか。いや、きっと言葉なんかじゃ伝えきれない。刻むは愛の印を。








名前、









「愛してる」












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敬愛なる(笑)艶姫様に捧げます。沖田さんイケメンうおお!書いていて楽しかったです。何時もありがとうございます(^^)


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