冷たい冬の風が頬を掠める、そんなクリスマスの夜。駅へと向かう大通りはカップルで溢れ返っていた。ライトで装飾された街路樹のイルミネーションを眺めたり、幸せそうに寄り添ったり。

そんな人達を眺めては吐いた息で両手を擦った。それからツンとした空気に思わずマフラーに顔を埋めてみる。我ながら不格好な出来の手編みのマフラーは私が使うには少し長すぎたようで、前に垂らすと腰の辺りまである。

きっと白咲だったらぴったりな長さなんだろうな、なんて声に出した途中でハッと言葉を噤む。だめだよ私ってば。


『もう諦めるって決めたのに……』


叶わないって、届かないって、そう思っていた。白咲はもともと白恋を管理するために送られてきたシード。いつかは白恋からいなくなってしまう事だって分かってた。

だからこの想いは伝えなくて良かったんだ。そう言い聞かせた胸は苦しくて。俯いた瞬間、


『あ……』


私の目の前にふわりと真っ白な雪が舞った。ひらひらと掌に触れては溶ける、まるで私の恋みたいだ。そう、こんなに儚いものなら初めから恋なんてしなければよかった。白咲が私の前からいなくなって、この想いはただの思い出になればそれでいいんだ。なんて思ってもやっぱり胸は張り裂けそうで。

私は急いで駅へと向かった。

もしマフラーを渡せたら、私達の関係は変わっていたのかな?初雪を眺める恋人達のように二人で一緒に過ごせていたのかな?


『白咲っ!』


はぁはぁと息を切らせながら白咲を探す。


『白咲…どこにいるの白咲……っ』


人の少ないホームに響く私の声。その声に驚いて振り返った人達は大きな荷物を持っていた。きっとこの人達も白咲と同じように遠くへ行ってしまうのだろう。早く、早く探さないと……


「名前…?」


刹那、ふと視界を掠めた見慣れた顔。


『しろさ…き…』

「どうして名前がここに…」


私を見るなり戸惑ったように眉を顰めながら近付いてくる、やっと見つけた愛しい人。


『雪村に…教えてもらったの』

「………そうか」


そんな顔しないでよ。私はただ白咲に想いを伝えたかっただけ。この想いを綺麗な思い出にするために。

ううん本当はね、ちゃんと両想いになって二人で色んな思い出を作りたかった。だけどいつかくるこの日が怖くて言い出せなかった私の両手は空っぽのまま。白咲との思い出も温もりも、何もない。

駅のホームには列車到着のアナウンスが流れてくる。

ねぇ、
さよならってこうゆう事なのかな?


「…………」

『…………』


行かなくちゃ、そんなの分かってる。白恋からいなくなる事を私に言わなかったのも白咲の優しさだって分かってるよ。


『…それじゃあ、向こうに行っても元気でね』


白咲に出逢えてよかった、そう言って握られた手を解く。私に恋をさせてくれてありがとう。そしてさよなら。だけど未だ言えてない一言。どうしよう、もうすぐ列車が来るのに。

私はギュッとマフラーを握り締めて前を向いた。


『あのね、』


言いかけた唇にふわりと重なった白咲の唇。その瞬間、一筋の涙が頬を伝った。

今だけは泣いてもいい…よね?もう言葉はいらないから。だからお願い、このままギュッとしていて。









私の初めてのキスは涙の味がした。

まるでドラマみたいな恋。

見計らったように発車のベルが鳴った。











初めての恋が終わる時
(来年の今頃には)
(どんな私がいて、どんな君がいるのかな)






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切ない片思いを切ない両片思いに解釈させて頂きました。




(120924)



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