天気予報は晴れ。

今日はぽかぽかと暖かい陽気になるでしょう、なんて、


『……天気予報はあてにならないな』


ぽつりと呟いてため息をつく帰り道。予想外の雨は、雨除けに頭の上に乗せた通学バックに当たってザアザアと大きな音を立てている。

ずっと伸ばし続けている髪は毛先まで濡れて、制服も雨で地肌にくっ付いてしまう程に水分を吸収し……とまぁ、雨除けの意味など成してはいないのだが。


『…最悪………』

「何が最悪なの〜?」

『……っ!』


突然聞こえてきた妙に聞き覚えのある声に恐る恐る後ろを振り向けば、その声の持ち主である西野空君と天河原の面々の姿があった。

………げ、というか、え。


『何で傘さしてないの?』


びしょびしょな彼らに吃驚した。いや、西野空君に関しては人一倍濡れているような気もするけどあえて触れないでおこうか。


「名字だって」


と星降君。そう言われればそうだった。まぁついさっきまで天気予報通り快晴だったのだ、傘なんて持ってる方が……傘……


『…お、折り畳み傘!!』


そうだ。私折り畳み傘持ってるんだった。何で気付かなかったのか、今の自分の格好を見ては情けなくなってくる。とりあえずバックの中から取り出した折り畳み傘をさしてみるが、


「それ………もう意味なくないか?」

『え?』

「俺もそう思うんだが…」


隼総君と喜多君が何か珍しい物でも見てるような顔で私の事を見てくる。そりゃあもう既にびしょ濡れだけど家まであと10分はかかる。このまま傘をささなかったら風邪引くかもしれない。というか今ここで立ち止まってたら余計に濡れてしまうじゃないか。

私は彼らを無視して先に帰ろうと止めていた足を再び家の方向へと動かし始めた。だいたい最近多すぎるのだ。何が、って彼らと遭遇する事が。以前隼総君に水をぶっかけてしまって以来やたらと馴れ馴れしいというか何と言うか……


「じゃあ僕も入れてよ!」

『わっ!ちょっ…』


なんてぼやぼや考え事をしていたら急に傘の中に西野空君が入ってきた。それから傘を持ってにっこりと笑顔を向けられる。


『って、待って!どこ行くの!』


危うく彼の進む方向に合わせ足を踏み出そうとした手前、はっと我に返った。私の家はそっちじゃないぞ。眉を潜めて軽く睨めば「コンビニ寄ろうと思って」とまた笑顔。思って、じゃない思ってじゃ。人の傘の中勝手に入っといて何我が儘言ってんだこの人は。


「僕お腹すいちゃったよ」

「そうだな、俺も何か食べたいし」

「ああ、いいんじゃないか?隼総もそう思うだろ?」

「あ?俺かよ、俺は別に……」

「けってーい!皆行きたいって言ってるしコンビニ行こー!」











『……………却下』














「えええええっ!何でだよ名字!名字には奢るよ?隼総が」

「何で俺だよ!ふざけんなテメェ」

『……そんな事言っても私は行かないからね』


そう言うとまたうなだれる西野空君。当たり前だ。こんなびしょ濡れの格好でコンビニに入ったら店員さんも迷惑だし。それくらい西野空君はともかく、他の皆は分かるはずだろう。


「もうしょうがないだろう、あきらめろ西野空」


そこで彼を宥めに入ったのが喜多君だった。もう何度も見てきた彼らのやり取り。そのやり取りの中で見てきて思った、喜多君はやっぱりまとめ役なんだと。


「とりあえず名字に傘返してあげろ」


星降君はいつも冷静で力量のある人。彼のおかげで喜多君もチームもすごく支えられてるんじゃないかと思う。


「うー…わかったよ、何か奢って貰いたかったのになぁ……隼総に」


西野空君はいつもはしゃいでばかりで、煩くて迷惑した事もある。というか思うといつも迷惑してるかもしれない。それでも根はいい人だと思う。


「だから何で俺なんだよ!テメェなんかに奢る金なんてねぇよ」


隼総君。隼総君は……言葉遣いは悪いし睨むと怖いし私の関わりたくないタイプだった。でも何か困った事があった時はいつもさり気なく助けてくれる。なんだかんだ言って優しい人なんだよね。


『………ぷっ』


前は絶対に悪くしか見えなかった彼らの事も、いつの間にか良い所が見えるようになるなんて。そう思うと自然と笑みが零れた。

そんな私を見て皆が吃驚した顔をして会話を止めた。


「名字が……笑っ…た」


失礼だな隼総君。私だって面白い時には笑うし幸せな時にも笑うよ。





……って、あれ?















(私、いつのまに)
(こんなに彼らと仲良くなったっけ?)




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♪Starry Night♪のニュケ様に捧げます。相互記念に。


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