ぐるぐると回る視界。いや、頭の中?まるで大時化の中を小さな漁船で揺られているような感覚……ええと、つまり乗り物酔いだ。


「大丈夫?」


ベンチで完全にダウンしている私の隣で心配そうに声を掛けてくれるシュウ。まさかコーヒーカップ如きでこんな思いをするなんて思わなかった。私は調子に乗って回しすぎた事を今更悔やみながらもシュウがさっき買ってきてくれた冷たいお茶を飲んだ。

今日は初めてのデート。今まで森の中を二人で散歩した事はあったもののデートらしいデートをするのは今日が初めてなのだ。それに加えて遊園地に行った事がないシュウを喜ばせるために誘ったというのに……


『ごめんね、せっかく遊園地に来たのに』

「気にしないで、僕も丁度休みたかったからさ」

『シュウ…』


申し訳なさにちらりとシュウの方を見てみれば笑顔を向けられる。ああ、何て優しいんだろう。私はその笑顔に胸が打たれるのを感じながらもうひとくちお茶を口に流し込んだ。そういえばだいぶ体も軽くなったし気分もすっきりした気がする。そうだ、私こんなところでゆっくりしてる場合じゃないんだ。


『よし、次はどれ乗ろっか!』


せっかくシュウも休みたいと言ってくれていたわけだけど今日が終わればまた特訓漬けの毎日に戻ってしまう。それに今日は……


「えっ?本当に大丈夫なの?」

『大丈夫大丈夫!』


急に態度が変わった私を不思議そうに見つめるシュウを引っ張って次のアトラクションへ。今日は私達にとって大切な日なんだ。シュウはそういった事はあまり気にしなさそうだから覚えてないのかもしれないけど、代わりに私が今日を特別な日にしなくちゃ。


「あ、じゃあさ………」

『?』








***









「わぁ、この人形よく出来てるね」


薄暗い視界、不気味な音、気味悪い人形。シュウに連れられて来てみれば。


『ま…待ってシュウ、歩くの早いよ…』

「あれ?名前こういうの苦手?」


苦手もなにも、このお化け屋敷から出て来た女の子が泣いてるのを見てずっと避けてたのに。私は入り口で渡された小さな懐中電灯の明かりを頼りにどんどん先へ行ってしまうシュウについていくのに精一杯だった。暗すぎてシュウがどんな顔をしてるのか分からないけどいつも通り落ち着いたその声色は少しだけ怖がる私を楽しがっているようにも聞こえる。


「見て、あそこにドアがある」


あ、また。先に行かないでって言ってるのに。……どうしよう、怖い。近くからも悲鳴が聞こえてくるし出口まであとどれくらいあるのかも分からな……って、


『きゃあああああっ!?』

「わっ!?」

『やだ、何、何かっ』

「大丈夫だよ名前」


突然何かに足を掴まれ慌ててシュウに抱き付いた私。だけどシュウが懐中電灯を向けてもそこには何もいなくて、確かに掴まれたんだと言ってもシュウは笑うだけ。しまいには「本格的だね」なんて。もしだけど、もし、お化け屋敷に紛れ込んで本当のお化けがいたらどうするの。そう言えばシュウは急に黙り込んでしまった後クスリと笑って私の手を握った。


「どうしようね」

『…っ』


それからシュウは私の手を引くように奥へと進んで行く。ドクドクと胸の鼓動が早まっていくのは多分、繋がれた手のせい。だけどおかげでさっきまでの恐怖心はどこかへ飛んでいっていた。


「───…おつかれ様」


無事に出口に着いてやっと緊張が解けた様子の私を見て微笑むシュウ。手は繋いだまま、ちょっと恥ずかしかったけど係の人に懐中電灯を返してそのまま園内を少し歩く事に。

気付けば日も暮れて辺りは夜の遊園地にライトアップされていた。あまり遅くなると教官に怒られてしまわないかと時間を気にするのはどうやらシュウも同じのようで、二人で顔を見合せた後私達は最後にと、あるものに乗りに行った。


『今日楽しかったね』

「うん、名前の怖がる姿も見れたし」

『あれは…っ』

「あはは」


他愛ない会話を交えながらも外の景色を眺める私達。見える景色がゆっくりと遠くなっていく。今日乗ったコーヒーカップもジェットコースターも、もちろんさっきのお化け屋敷も、段々と小さくなっていくライトアップに包まれた可愛い遊園地が私達の特別な一日の素敵な終わりを演出してくれていた。

今日は、そう、一年記念日。シュウは覚えてないかもしれないけど一年前の今日、確かにお互いの気持ちが通じ合った。それから思い返してみれば喧嘩もいっぱいしたしすれ違いもあったけど今となっては全部が大切な思い出で。これからもそんな思い出を作っていくために。そんな願いを込めて私はシュウを観覧車に誘ったのだ。この遊園地のジンクス、シュウに話してみようかと景色からふと前に座るシュウに視線を移せばシュウも同じように私の方を見ていた。


「ねぇ名前」


それから私の隣に移動してくる。密室にシュウの声が響いて少しだけ緊張してしまうけどシュウもそんな私を見て照れくさそうに笑った。


「ジンクスって知ってる?」

『…っ』


この遊園地のジンクス。記念日に観覧車の頂上でキスすると二人は永遠に結ばれるんだって。私は近付いてくる頂上とシュウの顔にゆっくりと目を瞑った。







ジンクスを誓う
(なんだ)
(ちゃんと覚えててくれてたんだね)






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シティル様へ。遊園地デートと言ったらベタですがお化け屋敷に観覧車な感じがします。ベタですがジンクスとかでも盛り上がりますよね。ベタですが(笑)では、遅くなってしまいましたがリクエストありがとうございました(^^)


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