『遅い!』

「待ち合わせが早いんだよ!」

『何その言い訳』


9時に待ち合わせで只今の時刻9時半。前の勝負に買った私の条件を呑み一緒に映画に行く事になった私たちだけど、雪村の遅刻のせいで朝から少し嫌な雰囲気だ。

あーあ、せっかくお洒落して来たのに雪村何も言ってくれないし。普通女の子にはお世辞でも可愛いとか言うもんじゃないの?まぁ……雪村にそんな事期待しても意味がないって事はいつも一緒にいる私がよく分かってるんだけど。

思わず溜め息をついた私に負けじと溜め息をつく雪村。それから私の前で肩を窄めるような仕草をした。「悪かった」。聞こえるか聞こえないかくらいの声で謝ってきたからまぁ……いい、けど。ずっと引き摺ってたって気まずいだけだし。


『じゃあ……行こ?』


それに今日見る映画ってずっと前から見たかった映画だしね。







***







「───…おい」


待ち合わせから少し歩いた所にある映画館。ポップコーンと飲み物のセットを買って、おまけに泣いても大丈夫なようにすぐ取り出せる所にハンカチを入れて。準備は万端だ、よし見よ……


「おい!」

『へ?』

「何だよこの映画!」


見る準備が整いスクリーンから流れるプロローグを眺めていたら雪村がひそひそ声で話しかけてきた。


『嫌だった?』


映画に集中したいけど雪村が話しかけられたら集中出来ないじゃない。私は適当に返してポップコーンを口に運んだ。


「嫌、っていうか…こういうのは…普通彼氏と見に行く…もんじゃ…」

『?』


何か隣でぶつぶつ言ってる気がするけどよく聞き取れない。まぁ男の子ってこういう手の映画には不慣れっていうか免疫がないっていうか、そんな感じだから。ましてやいつも勝負しろだの決着をつけるだの煩い雪村だ。ラブストーリーなんて見るの初めてかもしれないし恥ずかしいのかもね。まぁ私だって初っ端からこんなにキスシーン連発だなんて知らなかったけど。

それからプロローグが終わり起承転結の順で話が展開していく間、ずっと雪村はそわそわしていた。ポップコーンを食べたりやたら周りを気にしたり。別に皆は映画に集中してるわけで誰も雪村の事なんか見てないっていうのに何をそんなに気にしてるのだろうか。というか、

あれ?手………


『ゆき、むら……?』

「……」


ふと膝の上に置いていた手に重ねられた温もりに横を向いてみるとそっぽを向いた雪村がいた。決して私の方を見ようとはしないけれど、もう一度名前を呼んでみればピクリと反応した後今度はゆっくりと私の手を握ってくる。


『……ゆきむ』

「黙ってろ」

『……っ』


………何これ。

ドキドキと心臓の音が煩い。雪村と一緒に出掛けるのは初めてじゃないのに今更何でこんなに緊張してるんだろう、私。おかしいな。映画だってあんなに楽しみにしてたのに今は何にも頭に入ってこない。

雪村のくせに。いつも勝負勝負って煩いくせに。いきなりこんな事してくるなんて………

調子狂っちゃうよ、馬鹿。











スクリーンから流れる物語はまもなくハッピーエンドを迎えようとしていた。











とある二人の恋暴騒動
(これは、とある二人の)
(とある勝負の後の話である)






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某様リクエストネタ第二段。久々過ぎて設定ド忘れ()あと一回は続くかな?




(121205)



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