※さっぱり別次元の話をしています
最近僕はストーカー被害に遭っている。それもかなり酷い。
街を歩けば常に視線を受けるし、学校にいても、家にいても、どこかへ出かけてもそれは変わらない。
昼夜問わずコンコン、コンコンと家の壁を叩いて、この間は出かけ先で珍しく視線を感じないと思ったら部屋を荒らされていた。
これは最早ストーカーの域を超えている…何度僕はそう思い、何度僕は警察に連絡しようとし、同じ数だけ諦めただろう。
なぜなら僕に纏わり付くストーカーというのが……
「にゃあ!」
ソレはそれはそれは元気な声で今日も今日とて飽きずに僕をストーカーしていた。
まぁ隠れもしないところですでにストーカーと言うよりは付き纏いに近いというのが僕の見解だが。
このストーカーもとい付き纏い猫とはかれこれ二週間前の出来事だったか…
学校の帰り道に通った河原で誤って転落したのか、それとも悪戯好きの子供に投げ込まれたかは定かではないが、濡れそぼってぐったりと横たわるこの猫を運が良いのか悪いのか発見してしまったのがきっかけだった。
流石に放っておくことは出来ず、近づけば赤っぽい毛並みをした猫は大分衰弱しているように見えて、もう駄目かとも一瞬思った。
とりあえずタオルで身体を包んでやって、家に連れて帰り、目を覚ましたところでミルクをやったりなんなりとしているうちにすっかり元気になり、今ではストーカー猫になる始末だ。
全く、とため息もつきたくなる。
「いい加減ついて来るのをやめたらどうだ。」
とことことついて来る猫にしゃがんで語りかけみる。端から見ればいたい人間だが、警察に猫にストーカーされているんだ!何て言うのよりはマシだろう。
「恩返しだとでも思ってるなら気にすることはない。」
むしろ迷惑だ、という言葉はぐっと飲み込んだ。猫にそんなこと言ったって仕方がない。
現に目の前の猫はにゃあと鳴くだけ。
「はぁ…」
話のピリオドとばかりにひとつ溜め息をついて、さてそろそろ登校しなければ。
これはまだまだ被害は続きそうだ…、と、立とうとしたときだ。
ぴょん、と軽やかなジャンプで猫は僕の膝の上に乗り、そして絶妙なバランスのなかで…
「にゃ、」
キスをした。
そして、ぶつかられたといった方が正しい位のソレに「え、」と声をあげる前に目の前で有り得ないことがおこったのだ。
ぽん、と通常じゃ聞くことのないような軽快な効果音のなかであたり一面が煙に包まれる。
急にのしかかるような重みを感じて背中から倒れ込んで、しばらくしたら目の前には赤。
正確には真っ赤な色をした猫目持った少年がそこにはいた。
「おっおっおぉお!」
どういうことだろう、何がなんだかわからない。
目の前の少年は何なんだ。そしてこの状況は何なんだ。
ありえないだろう、猫の耳、猫の尻尾をつけた謎の少年が僕の上に馬乗りになっているなんて…しかも全裸で!
「あ…あぁ、ありがとうっスガタぁ!」
「なっなぜ僕の名前を!」
「やだなぁ、ずっとストーカーしてたんだから知ってて当然でしょー!」
とへらりと笑うが、つまりこいつは自分があの猫だと!?
その前にこいつストーカーの自覚があったのか…っ
「いやー実はさ僕、わるーい魔女に呪いをかけられて猫にされちゃったんだよね。」
唐突に話しはじめた内容はわけがわからなくて、呪いを解くには心に決めた人との口づけが必要で?あの時川を渡ろうとしてダウンしてたときに助けてもらってびびっときて?残ってる耳と尻尾は呪いが解けてるのが不完全だからで?
だから、
「今度からスガタの家に居候させてもらうから!」
「何故そうなる!!」
「え…?だって、完全に呪いを解くにはお互いが愛し合ってるのが条件だし…」
それから一度決めた相手は変えられないだの、住む家がないだのぺらぺら話した後に言ったのだ。
「僕のこと好きになってよ、スガタっ」
……ストーカーよりも甚大な被害だ…
お伽話の猫と学生服の王子様
「ままーあそこにこすぷれおにーちゃんとしらないおにーちゃんがへんなことしてるー」
「しっ、見ちゃいけません!」
「…っ、とりあえずこれを着ろっ」
「スガタ…優しいっ」