ざわめきと冷たさの中、僕は第一隊エンペラーの座についた。
理由は簡単だ。巫女であるワコとそしてタクトを守るため。
大切であるからこそ、救いたいからこそ僕はこの道を選んだ。
例え破滅の道であろうと歩みは止めない。そう心に誓った。
全ては、二人を守る、それだけのため。
綺羅星十字団に入ってようやく敵のその全貌が見えてきた。
多岐に別れる隊や、総数、技術、資金、笑ってしまうほどの規模がそこにあった。
全く地下にそんなものを創る暇があるならもっと別のすべきことがあるだろう、なんてコイツ等に言っても無駄なだけか。
個性の強いメンバーが揃うこの団の中で1番注意すべきは第二隊バニシングエージ代表ヘッドであろう。
奴は危険だ。言いようのない不気味な雰囲気を漂わせる。
にやにやと嫌な笑みを携えて何時も僕を不幸に陥れる。
そう、今だって。奴は何時もそうだ、絶妙のタイミングで僕を。
「あぁ君にはまだ紹介していなかったね。」
僕を蹴落とす、土足で踏みにじる、首を吊したような息苦しさに倒れそうになった。
「彼は俺達の元で共に旅立ちの日を迎えるために闘っている銀河美少年――――ツナシ・タクトだ」
暗がりの中現れたのは何時もの白を貴重とした服をインクで真っ黒に染めたような衣装を纏った、タクト本人だった。
目を疑う。どうしてタクトがここにいるんだ。
共に闘っている?そんな馬鹿な。
闇に包まれて表情は伺えない。ただ何時ものタクトの雰囲気とは掛け離れていた。
僕は彼に駆け寄った。
こんなのは嘘だと。きっと彼は無理矢理にここに連れて来られたんだと。
僕と同じ考えで君もここに来たんだろう?
隣で笑うアイツに何か吹き込まれたんだろう?
「スガタ…僕…」
「タクト………ッ!?」
突然腹に感じる痛みに僕は思わずその場に倒れ込んだ。
ヒリヒリとジワジワと僕を蝕む、ようやく顔をあげるまで殴られただなんて気付けなかった。
見上げた先にあったのは何時ものタクトの笑顔なのに、違う、何かが違う、やめろその笑い方、まるで…
ふと、タクトとの距離が詰まる。
唇の触れそうなその位置でタクトは幼子を諭すような声色で、言った。
「僕はスガタのそういう優しいところ、大好きだよ。」
頬を撫でられる。冷え切った指に感情なんて感じられない。
愛おしむようにされるのに、身体が拒絶を叫ぶ。
「馬鹿で、世間知らずで、騙されやすくて、脆くて、弱くて、偽善振りかざしてヒーロー気取りのスガタがだぁいすきだ。」
鼻筋が触れる。
僕の身体にタクトの身体が覆いかぶさる。
唇が、重なる。
「夢みたいな愛を語る唇、幼稚な欲望を吐き出す身体、可笑しくて可笑しくて微笑ましかったよ。」
耐え切れないと笑い出したタクトに声なんて出ない。
追いつかないこの状況に、これは悪い夢かとすら思う。
あたたかくて、優しくて、一緒にいるだけで幸せになるようないつもタクト。
でも目の前にいるのは冷たくて、痛くて、気を抜いたら、…殺されるとさえ感じる。
信じられなかった。信じたくなかった。
何故、どうして、頭を駆け巡るのはそんな言葉けだ。
「本当に…タクト、なのか」
力のない声が出た。震えてる。
そんな僕を見下ろしてタクトは笑う。
「当たり前でしょ!新手のボケですか、師匠ぉ?」
ふざけた口調。場に似合わないほどの。
僕の耳元で囁くんだ。君の愛したツナシ・タクトだよ、と。心臓をひとつきにされた気分だ。
「タクト、キングが困っているよ。」
笑う、タクトと同じ笑い方で笑う。
やめろ、やめてくれ、お願いだから…
「わけがわからないって顔だね、スガタ。」
だってそうだろう?
お前はワコを守るといったのに、
綺羅星のサイバディは全て破壊するといったのに、
父親を殴ると、戦うと、言っていたのに、
「うん、確かに僕はそう言った。」
「なら!」
「あれ?スガタは嘘って言葉を知らないの?嘘だよ嘘。全部嘘。あ、でも父さんは殴ったからそれは嘘じゃないか。」
そしてまた笑うんだ。
何も、何も可笑しくなんてないこの空間で。
何かが壊れる音がした。
ぱりん、ひび割れる。
ずどん、落とされる。
そして砂のように崩れていく。
あぁ、きっと彼等から見る僕はさぞかし滑稽だろう。
ワコを守るんだ、タクトを助けるんだと敵地に踏み込んで、
ひとりで何とか出来ると意気がって。
ふわり、変わらぬタクトの柔らかい香りがする。
何度も交わしたはずの甘い唇はさっぱり感覚がなくて皮膚を合わせる無機質なもの。
「ね、スガタ。愛してるって言ってよ、いつもみたいにさ」
愛を求める君は一体何を考えているんだろう。
滑稽だ。実に滑稽だ。
「さぁ、共に旅立ちの日を迎えよう」
裏切ったと思っていた僕が本当は裏切られていたんだから。
エンドロール・シュプレヒコール
本当に滑稽なのは
それでも君に焦がれるガラクタ人形
踊ろうか、この壊れかけた舞台の上で
→おまけ