※アメリカ出発前的な設定




「ほら、見ろよ土門!」
「何?」



どうしても一ノ瀬が部屋の片付けを手伝ってほしいと言うから(一人でそのくらいやれって……)、わざわざ来てやっているのに、さっきからコイツはずっとこの調子で手に取る一つ一つの物を眺めている。そんなことばかりしているから片付かないんだとは本人は気付いていないらしい。


「つぅか、片付けをしろよ一ノ瀬!」
「ん?あぁ、これ見たらちゃんとするからさ……ほら、!」


そう言って差し出される方に目をやると、そこには一冊のアルバム。随分と長いことしまわれていたのか、薄らと埃を被っている。


「……何、」
「俺達がアメリカに居た頃のやつだよ…懐かしいなぁ。」


と目を細めて微笑む一ノ瀬は、アルバムを開こうとはしなかった。


「見ねぇのかよ、中?」
「ん?そうだな……」


実はさ、とあいつの口から溜息が漏れる。


「俺、事故の後のリハビリの時にさ、足が完全に治るまで絶対、コレは開けないって決めてたんだ。」

「何だよそれ?」


意味が分からない、と呟くと、


「ほら、願掛けする時は、一番大事なものとか良く我慢するだろ?アレだよ、アレ。」


と肩を竦めた。


「……じゃ、俺が見る。」
「そうしてもらえると助かるよ。何だか、開けづらくて……」


もう足も完治したし、疾しい事なんて何も無いのに。一ノ瀬は苦笑いして、俺にソレを手渡した。たった一冊なのに、随分と重く感じた。手で払った埃が、昼下がりの日光に照らされて、蝶の鱗粉みたいに舞った。








結局、中身は一ノ瀬が恐れるほどの物じゃなかった。ただの写真だった。勿論、そんなのは当り前の話だが──…


「ほら、見ろよコレ!」
「西垣じゃん!懐かしいなぁ──」


いつしか俺もアルバムに夢中になって、すっかり片付けのことなんか忘れていた。


「元気かな、あいつ?」
「出発前に、一度遊びにでも行くか!」


一ノ瀬は嬉しそうに頷くと、そのままアルバムを閉じてしまった。


「…え、何で閉じるんだよ?あと1ページあっただろ?」
「いや、……無かったよ?」


そそくさとアルバムを段ボールに詰め込もうとする後ろから手を伸ばして、アルバムを奪い返す。

最後のページには、何か一ノ瀬の都合の悪い写真があるに違いない。相変わらず分かりやすい奴だ。


「!ばっ、おい土門!」
「何だよ、良いだろ?今更隠すこと何か無いって!」
「駄目だ!」
「なっ、馬鹿!引っ張んなっ!」


一ノ瀬が届かないように高く腕をのばすと、着ていたシャツを引っ張られる。


「返せ土門!」
「おいおい、んなむきになるなって……わ……!」


あんまり執拗に引っ張るもんだから、俺も一ノ瀬もバランスを崩して倒れてしまった。フローリングの床に鈍い音が響いた。


「って──……むきになりすぎ、お前」
「悪かった土門…」


そんなにイヤなら、とアルバムを返す瞬間、中から一枚だけひらりと写真が零れおちた。


「あ」
「え?これって……」


俺が拾う前に、一ノ瀬がさっと拾って素早くアルバムに挟み込んだ。目を瞑って冷静さを保とうとしているが、如何せん、耳まで赤くなっている。


「一ノ瀬、お前もしかして秋が───…」



と俺が言い終わらないうちに、玄関のインターホンが鳴って。


「一ノ瀬くん!」
「……秋、」
「あれ、土門くんも来てたんだね?」


突然やってきた彼女は手に持っていた白い箱を持ち上げて、


「ちょうど良かった!ケーキ焼いてきたから、皆で食べようよ!」


と笑った。




それは、麗らかな春の日差しが立ち込める、昼下がりだった。









++++++++

Child food様提出。

一ノ瀬と土門と秋の設定のはずが物凄く一ノ瀬と土門…!


素敵企画有難うございました!


101212 銀璽



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