性別を偽って従軍する風とそれと知らずに想いを寄せた皇の話。



















たねをまく






 暗い室内に荒々しい吐息と肉のぶつかり合う音が響いている。
まるで逃がすまいとするようにのし掛かり重ねた体の下で、途切れ途切れに聞こえる細い悲鳴にも似た喘ぎ。
涙を流してかぶりを振るその人の華奢な腕を脚を力任せに押さえつけて、蜜に濡れた体内へ幾度も幾度も自身を沈めていく。
「嫌、嫌です、お願い、ゆるして」
懇願する声が遠い。
下肢は熱く蕩ける様なのに、頭の芯は妙に冷えていた。
 どうして、どうしてこうなった。
 始めはただの憧憬と、そして幾ばくかの同情だった。
似通った境遇に在りながら皇が起つよりずっと以前から戦禍に身を投じてきた、風の名を冠する騎士。
年上といっても自分とさほど変わらない筈の彼の清廉さと苛烈さと直向きな優しさに皇は憧れ、痛み、そしてどうしようもなく惹かれていた。
初恋だった。道ならぬ恋だった。
越えてはならぬ一線を焦がれに焦がれ、そうしてとうとう衝動にまかせて唇を重ねた。
強引に抱き寄せればすんなり両腕に収まる体、想像よりずっと細くて頼りなかった。
例えこれまでの関係を壊す事になっても想わずにいられなかった、大切な人。
きっと軽蔑されるだろうと覚悟はしていた、それなのに、
「いつから、ご存知だったんですか」
返ってきたのは思いもよらない問いだった。
風騎士の声色は酷く冷えて、しかし意外な程落ち着き払っていた。
此方を見つめ返す瞳が映していたのは嫌悪でも困惑でもなく、
「私が女だと」
絶望にも似た深い諦念だった。
 驚愕に目を見開く主の様子に風騎士は小さく舌打ちした。
それは皇に対してというより自分自身に向けたもの様だった。
「我が君もお人が悪い、“男の”私がお好きだと先に仰って下されば平手の一つも差し上げましたものを」
皇の腕の中で観念したように風騎士は肩を落とす。
「ご存じなかったとはね、口が滑ってしまった」
 彼、否彼女は抗う意思が無い事を言外に示唆し、「女ってそういう“道具”でしょう?」と力無く笑った。
 恋は破れ淡い胸の疼きは悔恨へと姿を変え、込み上げる嗚咽を堪える事も出来ずに泣きながら皇は風騎士を抱いた、否抱かれた。
幻滅したわけではない、そんな資格ありはしない。
結局のところ皇は肥大化した理想の受け皿を彼女に求めていただけだった。
幻滅されるとすればそれは、女であったが為に受けた辱しめと味わってきた絶望とを推し量る事が出来ながら、それでも風騎士の女体へ劣情を抱いた己の節操の無さだ。
 臣下であり何より女である故、主に求められれば風騎士は決して拒まなかった。
皇の雄を口に含み、自ら体を開いて跨がり屹立したそれを受け入れる、その全てを風騎士は無感情に事務的に処理した。
皇の腹の上でがくがくと腰を揺する姿が憐れだった。
息を詰めて呻く様に喘ぐ声が痛々しかった。
熱を放ち白い肢体を汚す度に襲う底の見えぬ虚無感。
それでも求めることをやめられないのは今も彼女を好きだからなのか、単に自身の恋心への未練なのか。
何度も肌を合わせた。
失った物を取り戻そうとするように関係に溺れた。
行為の快さに心と体とが解離していくのを感じていた。
追い詰められていたのかもしれない、皇は“その時”酷く切羽詰まっていた。
“いつもの様に”跪く風騎士に焦れて苛立ち乱暴に抱きすくめると、そのまま寝台に組み伏せた。
彼女は僅かに恐怖の色を浮かべ、それが何故か酷く皇を煽る。
情欲に押し流されるままその体を無理矢理に割り開き、乾いた秘所へと自身を捩じ込んだ。
風騎士が苦しげに表情を歪めたが、構うこと無く腰を揺する。
激しく打ち付ける度にひきつった様な悲鳴が上がった。
「待っ、て・・・・やめ・・・・皇様・・・・ぁ・・・・あっ・・・・」
言葉とは裏腹に擦り上げられた風騎士の中は肉欲でぬるぬると湿り始めていた。
男を悦ばせる為に散々用いられた体はまるでねだる様に皇をきゅうきゅうと締め上げ淫らに絡み付く。
その整合性の無い様が余計に皇を昂らせた。
気持ちが良い、早く吐き出してしまいたい。
急く様に責め立てられ悲鳴にも甘いものが混じり始める。
じっとりと汗ばみ肌を紅潮させて乱れながらも、風騎士は何かに怯える様に弱々しくしかし絶えず皇を拒み続けていた。
そして、
「やっ・・・・離し、抜いて・・・・!」
体を貫く熱が一際大きく脈打つと、風騎士の紅潮した頬からさっと血の気が引いた。
「い、嫌だ・・・・中は、それだけは嫌・・・・ッ」

 浴びせてほしい、とは今考えれば殺し文句だった。
お陰でこの時まで終ぞ皇は風騎士の中で果てる事がなかったのだから。
こぷ、と泡を立て溢れ出る白濁に一筋赤いものが混じる、まるで処女を散らされたようだった。
「うあ・・・・ぁ・・・・熱、い・・・・」
胸を上下させ呆然自失で横たわる風騎士の目からは涙が流れていた。
 孕んではもう戦えない。
父の遺志を継ぎ祖国を取り戻す為に女である事を偽ってまで戦ってきた風騎士にとって、それは死ぬことと同義だろう。
幾度体を重ねても人形の様に虚ろだった彼女が情事に初めて見せた感情らしい感情は、胸を抉り身を引き裂く様な痛みを皇に与えながら残酷なまでに甘美だった。
 次の晩は夕刻そっと姿を隠そうとした風騎士を捕らえて事に及んだ。
泣き喚いて拒絶する彼女の口を塞ぎ腹が膨れ上がる程に何度も子種を注いだ。
 その次の晩からは簡単だった、命令だと言えば彼女は逆らわない。
主の慈悲にすがるように涙を浮かべて懇願するその瞳が絶望に沈む様が堪らなく愛しかった。

 どうしてこんなことになったのだろう。
 酷い事をしている自覚はあった。
それでも風騎士を占有出来る事への悦びが皇を凶行に走らせ続けた。
 好きだった、本当に好きだった。
幸せで在れと切に切に願った、叶うならばこの手の中で幸せにしたかった、その気持ちに嘘は無い。

「ぁ・・・・出さ、ないで・・・・も・・・・やだぁ・・・・」
 涙混じりに喘ぐ風騎士の声が、回想へ沈みかけていた意識を引き戻す。
風騎士はただの一度も皇を非難しなかった。
主の名誉と保身を慮り声を殺して泣きながら、もはや陵辱に等しい愛撫を甘受してきた。
「いや、嫌、嫌だ、許して、やめて」
逢瀬を重ねる度にいつしか再び自分の感情を黙殺するようになっていた彼女が、こんな風に皇を拒むのは随分と久しい気がする。
もしやと思い当たり耳元へ唇を寄せて一言――“今日”?と囁きかけると、風騎士はがたがたと体を震わせて怯えた。
それなら今日は念入りにしてやらなければ、掻き出したり出来ない様に朝まで抱き締めていようか。
「ねぇ、風騎士」
暗い歓喜と愉悦とが皇の胸を侵食していく。
「結婚、しようか」
 ――そう、きっと僕が守ってあげる。
 殊更優しく唇を落とすと、風騎士は顔をひきつらせ目からぼろぼろ大粒の涙を溢した。
「いや、たすけ・・・・ちちう、え・・・・」
 いっそ狂えたら、いっそ壊してしまえたら。
 涙に濡れる愛しい人をきつく抱いて何度も何度も奥へと欲望を叩き付け、けだものの如き情交は明け方まで止むことがなかった。















*****

風樹で風ちゃんが女の子だったら皇様がヤンデレ化するよなという。
あくまで風樹の設定なので二次創作の二次創作みたいなもんです…


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