大切過ぎて大切にできない兄弟の話。
歪な自己愛は時に自分を切り刻むから。























「今、なんて」
辛うじて泣き崩れるのは免れた、それでも声が震えるのはどうにもならなかった。
当の兄は此方の反応を織り込み済みなのだろう、眉一つ動かさずに続ける。
「お前の存在は陛下共々この国の光明だ、身内の醜聞など最も忌避すべきだろう」
――ずるい。
「だから、俺はお前の傍に居るべきではない」
ずるい。
ずるい。
あんまりだ。
そんな綺麗事を言って本心は自ら付けた傷の痛みに耐えられないだけ。
平然と迎え入れられるのが貴方は怖くて仕方がないんだ。
ずっと待っていたのに、こんな。
「……もう、決めた事なんですね」
一旦喉元まで出かけた恨み言はすんでのところで飲み込めた。
きっと兄は自分の弟を聖女か何かと間違えている。
勝手に偶像を重ねて、勝手に身を引こうなんて、全部、此方の所為にして。
――私の気も知らないで。
それでも、その幻想を甘受する事でしか応えられない自分には、そんな感情お門違いだという事ぐらい理解している。
――結局のところ怖いんだ、幻滅されるのが。
いっそ恥も外聞もかなぐり捨てて、行かないでと子供の様に泣いてすがることが出来たなら、こんな思いをせずに済むのだろうか。
「兄さんの決めた事なら、私からは何も」
それで良い。
もう声も震えていない。
別に居なくなる訳じゃない、ただ会えなくなるだけ。
「でも、待つぐらいは私の自由ですよね」
高潔で、心優しくて、……強くて。
“嵐騎士”はこう在るべきだ。
自らの我儘の為に兄の我儘を許すのだから、きっとお互い様だろう。
求められる儘の弟で在りたいが為に再び兄を失おうとする自分のエゴと、贖罪を思う余り誰も望まない形で償いを押し付けて原罪から逃げ出そうとする兄のエゴと。
実に矛盾している、実によく似た似た兄弟じゃないか。
「勝手にすればいい」
「はい、では勝手に待ちます」
兄は背を向けたきり此方を顧みず差し出した手は所在無く空を漂う。
今度こそ本当に泣き出してしまう前にどうか、どうか早く私の前から消えて。
そして一人きりになった時残される感情は哀しみでも憤りでもなく――それが安堵である事を知っていた。















偏愛ぱらどくす













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同居失敗。

風樹本編終了後の闇嵐の兄弟仲はこんな感じになると思う。
完全和解は多分聖機兵の頃。


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