5 さっそくばれた 次の日。何も変わることのない日常にちょっとだけ拍子抜けをしていた。まあそうだよね。私が知らなかっただけだし、亜人種は普通に存在している。 世界が変わったわけでもない、私の認識だけが変わっただけ。 いつも通りに朝友人の千絵里ちゃんと合流して朝食を食べ、授業のある教室へと向かう。 この友人は前に見た羊の耳と角を持つ亜人種だ。私が亜人種の存在を知らないということに気付いていたにもかかわらず、教えてくれなかったずるい友人。 昨日知りました、という報告はしていない。まあ丸藤先輩に連れ出された理由は聞かれて正直に話したけど。だからしばらくは教えないでおこうかな。ささやかな意地悪返しだ。 「あ、丸藤先輩じゃない?」 「本当だ」 「あんたねーその反応、昨日先輩に告白された人間とは思えないわ」 「うっ」 いや、そわそわというかドキドキはした。だけど其れは告白された後の授業の時だ。レッド寮で色々話しを聞いて最後にまた告白されて返事をして、その後はドキドキもあったけどそれ以前に頭の中を整理することでいっぱいだった。 それになんか、勝手に自分の中で新しい世界に来た!というような心境になっていて、朝起きてみて拍子抜けしたことによってドキドキ感を忘れている。 「まさか先輩の告白を保留にするとはね」 「もう言わないで!千絵里ちゃん!」 「だって伊織、カイザーのファンでしょ」 実は丸藤先輩のファンだったりした。天上院先輩のファンの人みたいに熱烈ってわけではないけれど、三人の先輩の中では一番好き。 ちなみに千絵里ちゃんは天上院先輩と藤原先輩のかけもちファン。 「雨宮」 「あ、丸藤先輩。おはようございます」 「おはよう」 こちらに気付いたらしい丸藤先輩がこちらに歩いてくる。後ろでは天上院先輩と藤原先輩が様子を伺っている。 お目当ての先輩がこちらにこないので少し肩を落としている千絵里ちゃんだが、目の前に丸藤先輩を認識して私を見て笑う。 明らかに他人事だと思ってからかっている。私だって朝一番で先輩に会うと思ってなかったから、今すっごい緊張してるんだからね! 「先輩も朝一で授業、ですか?」 「いや、今日は2限からだ」 「じゃあ朝が早いんですね」 「ああ、吹雪に起こされてしまってな」 天上院先輩が後ろで手を振っていたのに気付き、丸藤先輩越しにお辞儀をする。その様子に千絵里ちゃんが私の腕を引いて、「何で吹雪先輩とも挨拶してんの!」と耳元で怒られてしまう。ちょっと腕痛いよ千絵里ちゃん。 「そうだ、こっちがあの、前に耳を見たっていう羊の子です」 「えっ!?」 腕を引く千絵里ちゃんをそのままに、丸藤先輩に紹介をしてみる。そう、確か前に夢だと思っていた千絵里ちゃんの頭には羊の耳とささやかな角が出現していた。 私の紹介に驚いた千絵里ちゃんは驚きすぎて大声をあげていた。 「ようやく気付いたの、伊織」 「…昨日知りました」 内緒にしようと思っていたけど、驚かせてやった方が気分がいいやと思い言ってみたのだが思いの外驚いていない。あれ? 「そうかそうか、やっと私たちも本性出せるってわけか」 「本性って」 「いや、私たち学年総出で伊織に耳と尻尾を見られないようにしてたから」 「あ、あれわざとだったの!?」 「反応が面白くて」 ど、どうりで学年で全然亜人種の姿を見ないわけだ!私が夢だと勘違いするのもわかる。 にしても、わざと私に見られないようにしてたなんて酷いでしょ!反応が面白かったって酷過ぎる。おかげで私は入学二年目にして真実を知ることとなったのに、全部学年の所為じゃん! そんな私のことは気にしないのか、千絵里ちゃんは私を置いて丸藤先輩へと相手を変えた。 「先輩も亜人種ですよね?」 「ああ」 「そうかー じゃあ頑張らないとね、伊織!」 「へっ 頑張るって、なにを」 「頑張って先輩を好きにならないとね?」 そりゃファンだったし、好き慣れたらいいなって思ったし、先輩のこと知りたいとは思ったけど、そんな直接的に分かる言葉は使わなかった。直接的な言葉を使わなかったのは恥ずかしいから。 千絵里ちゃんの言葉に私が赤面し、近くにいた丸藤先輩にも聞こえたのか照れた表情で私を見ていた。 あ、あああ…だからこう、直接的な言葉は言いたくなかったんだ! 「っ千絵里ちゃんのばかー!!」 そう、なにも先輩の目の前で言わなくてもいいのに。 友人の千絵里ちゃんはしっかり出てくるのは恐らくここだけです(笑) 13.02.16. |