妬けつく想い






「あ、伊織さーん!」


以前と変わることなく放課後にレッド寮へ訪れている。出迎えてくれた十代くんの頭を撫でれば、ぴょこんと飛び出た犬の耳。尻尾もぶんぶんと振られており思わず笑みがこぼれてしまう。
「カイザーも来てるぜ」と十代くんに手を引かれて中へと入れば、先輩三人と寮の違う明日香ちゃんや万丈目くんもいた。


「伊織」
「やっぱりこちらにいたんですね、亮先輩」
「すまないな」

連絡を取ろうとはしたのだが応答しなかったので、もしかしたらいつも通りにレッド寮かもしれないと来てみたら大当たり。
そのまま亮先輩の向かいの席へと腰を下ろす。レッド寮まで来るのは実際のところ距離があるので疲れる。そのまま息を吐いて座っていると十代くんが隣に座り、顔を近づけてきた。

「なあなあ伊織さん、三沢って知ってるか?」
「三沢…ああ、あの今年入ってきた白ランのかっこいい子だよね?」
「知ってたか。あいつも伊織さんと同じ人間なんだぜ。伊織さんとは違って知識はあったけど」
「へえ、そうなんだ!ちょっと話してみたいな」


聞いた話によると、DA内で亜人種ではない私と同じ人間の生徒はごく僅か。事実を知ったつい先日から注意して見ていれば本当に至る所に亜人種が同じDA内で生活をしていた。まあ生徒の数もそこまで多くないから見つけようと思えば見つけられるのだが、こうやって一方的にだけれど知っている人物が同じ人間だと興味がわく。
ただそれだけの興味だけなのだ。

「三沢のやつも先輩のことは噂で知っているらしいですよ」
「う、噂?」
「“カイザーに告白させて返事を待たせた先輩か”と言ってましたけど」
「な、なに、それ酷いんじゃない?」

確かに先輩への返事は待たせに待たせたけれど!その噂は酷過ぎる。っていうかそんな噂何処で回ってるのか知らないけれど、私の耳には届いていない…ということは後輩の間だけなのだろうか。
よし、まずは万丈目くんや十代くんに噂の否定を頼むとしよう。そうすればきっと噂はなくなるはず。
それにしても三沢くんとは話してみたいものだ。

「じゃあ是非話してみたいって言っといてくれると嬉しいな」


私とはどう違うのか、昔から亜人種のことは知っていた?それとも学校に入ってからとか?
どう行った経緯で知って、どう接しているか、今まで体験したことのないものがここ最近でどっと増えたので、他の人がどうしているかの興味が凄くある。もしかしたら私が間違えてしまっていることがあるんじゃないかだとか、人間しか知らないこととかあるかもしれない。
どんなことを話してみたいか、と想像がめぐりに巡っていると、ちょんちょんと控えめに肩をつつかれる。

「……伊織先輩、伊織先輩」
「ん?」

明日香ちゃんが眉を下げて私をつついていた。どうしたの、と首をかしげて見れば向かいの席を指でさされる。向かいの亮先輩へ視線を向ければなんとも形容しがたい顔で私を見ている。


「わ、カイザーが」
「うおっ 耳出てる!」
「ちょっとほら、十代、やめなさい。ヨハンも」


いつの間にか出現していた獣耳はピンと立ち、射られるような視線で見つめられる。十代くんとヨハンくんのことは気にしていない様子。だが、それはまるで私しか見えないかのように先輩の瞳が無言で語っていた。


「えっと、あの、どうかしましたか…?」


視線が少し怖かったが恐る恐る問いかける。こういうときはきっと、先輩の口からしっかりと聞かないといけない気がする。
空気を呼んでくれたのか、十代くんとヨハンくんは私から離れてくれている。

今までも十代くんを撫でていたり、吹雪さんと話していると、亮先輩が私をみていたことが何度かあった。今のように射られるような視線はしっかり私を捉えていて、噤んでいた口は固かった気がするのを覚えている。
そのあと何事もなかったかのようにふい、と顔を逸らすから何もないと思っていたが…


「…いや、何だろうな。的確に言い表せない」
「何か悪いことしました…?」
「悪いこと…いや、悪いことではない。…悪いことでは、ない。ああ、そうだ悪くはない」
「何か、気になるんでしょうか」
「伊織が、他の男の話をしていると、この、そのモヤモヤするというのだろうか」
「……もしかして、嫉妬してくれてます?」
「嫉妬…」

手を口に当てて考える仕草を取った先輩。確かに私が他の人の話や男の人と話しているときに先輩は私を射るような目線で貫いてくる。それにもやもやするというのだから、嫉妬、ということが連想できた。
少し考えた結果、ふむ、と言って口許から手を外した。

「そうか。俺は思った以上に嫉妬深いらしい」

先ほどの先輩を、先輩自身が“嫉妬”と認めた。その事実がくすぐったくて、でも嫉妬してくれているということが嬉しくて、緩む頬を抑えきれない。


「なんか嬉しいなぁ」
「嬉しい?」
「先輩が嫉妬してくれて」
「そんなもの、普段からしている」


えっ と一瞬固まる。普段から、普段…なら、今日と同じような態度を取っているあの瞬間は――― 十代くんを撫でていたり、吹雪先輩と話していたり、ヨハンくんとデュエルしたりしていたときは――― 嫉妬、してくれていたのだろうか。


「お前をどれだけの間、好きだったと思ってるんだ」



そういえば先輩は一年ほど前から私のことを気に入ってくれていたんだった。その事を思い出した私は、先輩がそれほどまでに私のことを好きでいてくれたという事実を改めて認識する。それに加えて面と向かって嫉妬の事実を突き付けられ、顔が熱くなるのを止められない。
ああ、もう、どうしてこんなに はずかしい。




嫉妬カイザー
13.10.22.
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