おんなのこのヒミツ 授業も終わり、千絵里ちゃんとデュエルをして過ごしていた。そのあとは千絵里ちゃんの亜人種特有の耳や尻尾などを触らせてもらっている。 天気の良いアカデミアの芝生の上。そこに影を落として現れたのは吹雪先輩の妹である明日香ちゃんだった。 「伊織先輩」 「あ、明日香ちゃん」 「少しお話しませんか?」 * 明日香ちゃんが話しに来ると言うことは丸藤先輩関係だということだと察しができた。 千絵里ちゃんは私たちに気を使って席をはずしてくれた。というより後で報告できることはしに来い、ということだろう。何だかんだで丸藤先輩絡みのことを心配してくれている彼女らしい気遣いだ。 外だった場所を移動し、校舎のテラスに来ていた。先輩の私のおごりで飲み物を二つ分手にしてソファへと腰かける。 「亮とはどうですか」 「どうって、見ての通りだよ」 「ふふ。何か心境の変化とか」 「…いい人だな、とは思う。優しいし、デュエルは強い。尊敬できる」 それは告白される前にも思っていたことだ。 三天才のカイザー亮。人間の印象は滅多なことがなければそんな簡単に変わらない。関わりを持ってからもそう大きく変わることはなかった。 「カイザーの印象は変わらないかな」 「まあ、自分を偽るのが苦手ですからね。思ってるほどそのままの人間だと思います」 「うん、そう。でも見えなかった部分も少し見えた」 「見えなかった部分?」 しかし全く変わっていないわけではない。憧れのカイザーとしてではなく、丸藤亮としての人間性が見えてきたのは確かだった。 短い時間であっても、それは確かなもの。 「いつもキリッとしてて格好いい印象が強かったんだけど」 「だけど?」 「結構、感情を表に出すんだなって。仏頂面で格好いい感じだったの、失礼でしょ?」 それに分かり辛いけど弟思いで、恋愛事は得意じゃない。私に告白してきたときだって顔を赤くし、思わず耳と尻尾が出てきてしまっていた。赤くなる顔は今までに見たことがなかったし、それに微笑むという行為も近くで見たことはなかった。 格好いいと思うことが当たり前だったことから、可愛いな、なんて思うようになってることもある。 「ふ、ふふ。それ、本人が知ったらどうでしょうね」 「言っちゃだめだよ!?」 「はい、言いませんよ」 可愛い、なんて男の人に言ったら機嫌を悪くするだろう。十代くんはどうだかわからないけれど仮にも丸藤先輩は年上の男性だ。怒るかどうかは分からないが、多少のショックは受けるだろうか。 「でも亮の表情って、私もそこまで早くわかりませんでした」 「へ?」 「先輩の前だと、やっぱり亮も表情豊かになるのかしら」 ふふ、と笑う明日香ちゃんの顔は窓から差し込む日差しに当たって綺麗だ。 そんな事はない、といいたけれど、上手く言い返せない。自惚れかもしれないが、丸藤先輩は私に多く微笑んでくれている。だから軽々しく「違う」だなんて言えない、言いたくない。 顔を赤くして黙る私に明日香ちゃんは再び微笑む。 「まだ付き合うには、“すき”が足りませんか」 「…わからないの」 明日香ちゃんのどこか懇願に似た声。多分一番言聞きたかったであろう話題。私自身、ああ、来たなと感じた。 来るとわかっていた話題だからこそ、冷静に応えられる。 「わからない。確かに丸藤先輩はデュエルが強くて格好よくて、優しくて尊敬できて凄い人だと思う。私にも真剣に向き合ってくれていて。嫌いにはなれない」 「……」 「人としては好き。だけどこれを一人の男性として好き、と断言していいか」 嫌いにはなれない。憧れ、すき。 でもこの好きはただの憧れの好きのままか?少しでも異性としてのすきへ近づけたか? 「兄さんはどうですか?」 「えっ」 「いいから、うちの兄さんはどう思ってます?」 「えーっと、経験豊富?で色々相談できるお兄さんみたいな先輩」 「じゃあ藤原さん」 「少し怖いけど、的確なアドバイスをくれるお兄さんって感じ」 「十代や万丈目くんとか」 「可愛い後輩、かな。見ていて楽しいし何よりかわいい」 「ふふっ可愛いって二回言ってますよ」 「いいの!可愛いんだもん!」 「なら亮は?」 「丸藤、先輩は」 格好いい、尊敬する、憧れ。 それもあるけれど、他にもいっぱいある。簡単には言い表せない、口に出して言葉にするのが難しい。この気持ちは言い表せない、ううん、簡単に言葉にしたくないとさえ思ってしまう。 「……それが、素直な先輩の気持ちだと思うんです」 「素直な、きもち」 「私は先輩がどんな結果を出しても関わりを絶とうとは思いません。いい先輩後輩の関係を続けていきたいです」 「…うん、ありがとう。頼りになる」 「だから何でも言ってください。出来る範囲で、ですけど」 後輩だけれど頼りになる。明日香ちゃんは本当にすごい。 今の会話で自分の気持ちを整理して確認…いや、しっかりと自分の気持ちを理解できたといった感じだろう。私の中に確立する丸藤先輩への気持ちを。 「あ、明日香ー!伊織先輩ー!」 「十代だわ」 「十代くんだね」 テラスにいた私たちを見つけた十代くんは、こちらに向かって手を振っている。隣にいた翔くんも気付いた様で、十代くんと共にこちらへ向かってくる。 飲み終わっていた空の容器をゴミ箱に入れ、明日香ちゃんを振り返る。十代くん達が近くにいる時だと恥ずかしがると思い、まだこちらに到着していないことをいいことに明日香ちゃんの頭を素早く撫でた。 「っ!」 「ありがとう、明日香ちゃん。おかげでわかったよ」 「い、いえ。私こそお節介かなと思ったんですけど」 「んーん。これからも頼りにさせて」 再度、綺麗な金髪の髪を撫でてあげると明日香ちゃんは顔を赤くし、ぽん!と音を立てて耳と尻尾を出現させる。 あ、そういえば主人から可愛がられたりするのって駄目なんだっけ…?!と慌てて手を離す。 「…十代がいうのもわかります」 「へ?」 「伊織先輩の撫でる手、すごく落ち着きます」 「あ、りがとう」 「またよかったら、撫でてください」 小声で、照れながら笑う明日香ちゃんの顔は可愛かった。これなら好きな時に好きなだけ撫でてあげたい!よろこんで、と返事をすれば、小さな声で「ありがとうございます」と返事が来る。 恥ずかしがる明日香ちゃん、新鮮で可愛いな、なんて思っていると十代くんと翔くんがテラスへとたどり着いていた。 「明日香、何顔赤くしてんだよ。何かしてたのか?」 顔をかしげる十代くんと翔くん。流石に内容は教えられないなあ、と、明日香ちゃんと二人、視線を合わせて笑う。 「女の子のヒミツの会議」 私たちのセリフに再び首をかしげる十代くん。翔くんもわかってはいないようだが、なんとなく了解しているらしい。問い詰める体勢に入った十代くんを説得してくれている。 明日香ちゃんと視線を合わせ、私たち二人は再び笑みを交わした。 明日香との絡みは絶対!入れようと思ってました! 気持ちを自覚?した伊織ちゃん、さてどうなるでしょう。 13.03.10. |