に届く足音



ぱたぱた…と廊下を上履きの音が響く。駆けてくるのは赤紫の髪を揺らした祐菜。

「お兄ちゃ…あ、遊星くんにジャックくん」

三年の教室の前にくれば、そこには遊星、ジャック、そして十代と万丈目がいた。教室の中からは吹雪と遊戯、城之内が出てくるところだったらしい。

「ああ、祐菜!」
「もうお兄ちゃん、お弁当の箸間違えないでよ」
「ごめんごめん。ありがとー」

目当てだった遊戯の間違えて持っていった箸を渡しに来たのだ。お昼は一緒に食べるのが基本だが、今日は祐菜が席をはずすということなのでこうしてクラスまで届けに来たというわけだ。
箸を渡された遊戯は教室内へと戻り、間違えて持っていった祐菜の箸を手渡した。

「で、四人は何の用事?」
「俺は城之内さんに漫画貸す!」
「俺は吹雪さんにちょっとな」
「俺たちは遊戯さんから要らなくなった教科書を貰いに」

遊星くんの言葉にジャックくんは「俺もです」と静かに言葉にした。ああそういえば遊戯が確かに要らない教科書を上げるようなことを言っていたかもしれない。遊星くんの手にしている教科書は先程遊戯が持っていたものだ。
遊戯も家にアテムの物があるからどうにかなるだろう。ひとつを二人で使うため効率は悪くなるだろうけれど。

「お兄ちゃんのだから絶対落書きしてあるよ」
「えっあっ 消したから安心してよ!」
「カマかけただけなのに…本当に落書きしてた」
「ちょっと祐菜!」

そんなやり取りをして祐菜は再び上履きをぱたぱたと鳴らして去っていく。
後姿を見て遊星が感じたことは一つ。


「…祐菜さんて、上履きのかかと踏んでるんですね」


意外だ、というような声でぽつり呟いた。それに返したのは従兄である遊戯。

「祐菜ね、中学からそうだよ」
「そうなんですか?」
「意外ですね」

遊星とジャックが不思議そうに遊戯の次の言葉を待つ。しかし続けたのは隣にいた城之内で。

「あいつ、中学の頃は少しヤンチャ集団に入ってたからよー。その頃のが抜けないらしいぜ」
「もう、あれは城之内くんが誘ったんでしょ!一時期は不良みたいになっちゃって大変だったんだよ」
「ちょっと授業サボったり、制服着崩してただけだろ?」
「それでも部活やってたから…」

風当たりは悪くなったけど、部活の成績は優秀だったからなんとかやってたし。少し面倒なこともあったけど祐菜は引退するまで貫いたんだよ。
遊戯は懐かしそうに、しかし不安を孕んだ表情で祐菜のことを話す。城之内もその頃を思い出していたのか、「あの時はなー…」と腕を組んでいた。


「俺たちも去年、同じこと聞いたんだぜ」
「一見、真面目そうに見えてアレだったからな」

十代と万丈目、ひいては吹雪も頷いていた。
あまり実感はしないがここの学校は一応私立だ。そこで一般にだらしないと言われるような格好をする生徒は数少ない。だから目についてしまう。特に非行しているわけではないので問題はないのだが。

「祐菜もだらしないところはあるかもしれないけど、中学の頃よりは大人しくなったから。まあ…口が悪いのは否定できないかな」
「フッ…はい」
「そのお陰でクラスでも“顔はいいのに口が〜”なんて言われてたしな」
「一年の間でもいつか言われ始めるんだろうな」


そんな先輩たちの会話を聞きながら、先ほどの彼女の足音を思い出す。
軽く鳴る足音。ぱたぱたと、軽やかに近づく。
かかとを踏んでいるからこそ奏でられるその音が耳に届くたび、振りむいて彼女を探すだろう。


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ジャックと吹雪さん空気!(笑)
13.01.04.