緒のくちづけ



遊戯とじゃんけんに負けてキッチンへ飲み物を取りに一階へ降りてきた。勉強から一旦離れることができ、頭が少しすっきりした気がする。
飲み物を用意しようと冷蔵庫へ向かう途中、リビングのソファから足が飛び出ていることに気が付いた。

「(あれは母さんじゃない…ということは祐菜か)」

母さんは夕飯の買い物に出ているし、じいちゃんな訳がない。だとしたらあり得るのはこの家の居候で妹分、かつ自分が想いを寄せる祐菜しかいなかった。
自分の存在が気付かれていないのか、はたまた気付いていても反応しなかっただけか。近寄ってみればすぐにわかった。祐菜はソファを陣取り、静かに寝息をたてている。テレビはついておらず、ただ身体をソファに投げ出して寝ているらしい。
小さな頃からみているが、変わらずに可愛らしい顔に自然と頬が緩んだ。近付いても起きない、そう確信しているから、そっと顔をのぞき込む。
長い睫毛、薄く開けられた唇。
上下する胸の膨らみ、制服のスカートから伸びる脚。
どれもが魅力的で虜にする。視線が奪われる。こんなにも心をかき乱される。触れたい。ちゃんと俺は、おまえと同じ場所にいるだろうか。確かめたい、同じ場所に存在するのか。
そう思うと、自然と顔が近づいていく。そっと、近づく体温。薄く開けられた唇に自身の唇を押しつけるだけの簡単な口付け。
離した唇、遠のく顔。咄嗟にアテムは自分の口を手で押さえる。


「(お、俺は今、なにを――)」

実の妹のように育ち、一人の女性として好きでいる。だが祐菜からすれば“兄”という意識が強いのだ。そんな男から、自分の知らない間にキスされていたなんて知ったらどうなるだろう。

「(やばい。これは暫く口が利けなくなるフラグ、か?)」

どうしよう。どうしよう。
自分のしたことを後悔する気はない(柔らかかったし、何より幸せな気分だ)し、今更行動を取り消すこともできない。まずい、どうすればいい。お願いだ起きないでくれ。
アテムは必死に祈り、待っているだろう遊戯と自分の分の飲み物を準備するためにその場を立ち去った。


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衝動的な。
近くにいるけど手が一番出しにくい位置にいるので、いろいろ爆発するんだと思います(笑)
12.12.12.