謝肉宴で盛り上がる中、王であるシンドバッドや神官達と騒いでいた一行。一段落した様子にアリババは隣で未だ食べ続けるアラジンを見た。 隣の長椅子にはエリニカとモルジアナが座っており、修行の話をしているらしい。その横のテーブルでは師匠であるシャルルカンたちが飲んで騒いでとやっている。 んぐ、とした声が聞こえ、隣を見ればアラジンが食べ物をのどにつっかえさせていた。慌てて水を渡し対応をする。 「う、おおお、これ飲め!」 「んんー!」 ゴクリと喉を通る音が聞こえる。 どうにかつっかえたものがとれたらしいアラジンに、2人してため息を吐いて安心した。 「大丈夫ですか?」 こちらの様子に気が付いたエリニカが声をかけてくる。隣のモルジアナもきょとんとこちらを見ていた。 「ああ、もう大丈夫だ」 「ありがとうアリババくん。ごめんよ、のどにつっかえちゃっただけなんだ」 そう言ったアラジンの手の器に水は既になく、気が付いたエリニカは「全部飲んじゃった?」と問う。頷いたアラジンへと微笑んだエリニカに続き、モルジアナが近くにあった水を見つけてアラジンの器へと静かに注ぐ。 モルジアナにお礼を言ってごきゅごきゅ再び水を飲み始めたアラジン。そんな彼らをアリババは笑って見つめていた。 調子を取り戻したアラジンは再び料理へと手をつけている。フルーツを手に取り口に含み、その甘さにほやほや表情を変える。そんなアラジンの果汁で濡れた口を拭いながらエリニカは笑っていた。 と、唐突にアラジンがエリニカを見つめる。 「エルさんのおっぱいって、見た目より大きいよねえ」 「え…そ、そう?」 「着やせ?って言うんだっけな。うん、大きいよ」 じいっとエリニカの胸部を見つめるアラジンにアリババは若干の苛つきを感じた。 確かに服の上からだとあまり目立たない。というより袖部分など服がゆったりしている為か、わかりづらいといったところか。ヤムライハがこっそり教えてくれたが、実際に結構あるらしい。 いまだにじいっと見つめるアラジンにエリニカがクスリ、小さく笑った。 「こんな胸でいいなら、抱っこしてあげようか?」 「えっ いいのかい?」 「うん。アラジンくん、おいで」 「わーい!」 「ちょ、エリニカ!」 腕を広げるエリニカに、アラジンは迷いなく飛び込んだ。こうしてみると分かるが、アラジンがぐりぐりと顔を押しつけているエリニカの胸はやはりそれなりにある。 アラジンが顔を押しつけることにより、普段よりも胸が強調されている。わたわたとアラジンが慌てているとエリニカはアラジンを支えながらクスクスと笑った。 「大丈夫です。一族では上の兄姉が下の子の面倒を見るのが普通ですし」 よしよしとアラジンの頭を撫でる。ターバンから出た青い髪を弄くりながら。 「男児はこうして、実際に触れながら女性というものを勉強するんです」 そういいながらアラジンが胸にふわふわ触れるのを笑って許しているエリニカ。 なんでだ、なんでだ。どうしてそう容易く触らせるんだ。エリニカは普通の子で、簡単に触らせていいという訳ではないだろう。 だってここはそういう店でも何でもない。王宮の中の、食客に対してだ。いやエリニカも食客だから食客同士ならいいのだろうか。しかしこんな宴の席では… そんなことが頭を巡っていたアリババは次第に正解がよくわからなくなる。否、正解なんてないのかもしれない。ただこのモヤモヤした気持ちは本物。アラジンがエリニカに抱きつき触れていることに腹を立てている、という気持ちは。 だからこそだろうか。エリニカに抱かれているアラジンを戸惑いなく引き剥がす。そのまま自身の隣に座らせ、納得したように腰掛けた。 「え、…っと?」 「…アリババさん?」 「な、なんだよ」 突然の行動にエリニカとモルジアナはアリババを見つめる。怒っていると感じたのか、二人は探り探りに口を開いた。 「すみません。一族では普通のことだったので…軽率でした」 「えっ」 「外では通用しない、不快にさせることだと分かっていたのに」 「いや、違」 泣きそうになりながら謝罪の言葉を向けるエリニカに戸惑ってしまう。アリババは何と声をかけていいか分からず、手を宙に浮かせて泳がせていた。 困り果てた表情を見、アラジンは柔らかく笑う。 「アリババくんは、エルさんを独り占めしたいんだね」 「えっ」 「あ、らじん!!」 「あれ、顔が真っ赤だよ」 「うるっせえ!」 ぴょいと長椅子から飛び降りたアラジン。そのまま走り逃げるのを急いで追いかける。アリババは後ろ姿からも分かるほどに耳が赤くなっていた。 二人が追いかけっこをしているのを呆れた顔でみていたモルジアナは、隣のエリニカが先ほどから動いていないことに気が付いた。 その顔を見ると頬だけでなく、顔を真っ赤に染め固まったまま。意識が飛んでいっているのではないかと思うほど、ガッチリ動かない。 「エリニカさん、顔が」 「あ、えっ えっ?!」 モルジアナの声に我を取り戻したのか、肩を揺らして慌て始める。その顔からは熱が引かず、未だ赤く染まっている。多分しばらくは引かないだろう。 「だって、アリババさんが」 小声でアリババさんがアリババさんが、と繰り返す。口元に手を当て、ふるふると震えだしたら強く目を瞑った。 そのままの勢いで隣に座るモルジアナの肩口に顔を埋めるようにしがみつく。 モルジアナは肩口に感じる熱に何をしたらいいか分からず、そのまま抱きつかれるのを許していた。 02.02. |