エリニカは気落ちしていたアラジンと共にホテルに戻る。一緒にごはんでも食べようか、と誘ってもいい反応が返ってこなかったのが心配だ。どうしたか彼の気持ちを上げられるだろうかと考えたが、今はそのお友達のアリババのことが解決しなければ無理だな、という考えに辿り着く。
流石にそれは自分でも出来ないとため息をついた頃、シンドバッドとジャーファル、マスルールが部屋へと戻ってきた。
情報整理をします、とジャーファルが言うのでエリニカも同席し、昨日のことを4人で整理する。


「昨夜起こったことを確認しますと、」


シンドバッドはソファへと腰かけ、後ろにマスルールを、机の前にジャーファルと名前を控えさせていた。

「シン達の見張っていた屋敷を襲ったのは"霧の団"ではなく、一般市民だったというワケですね?」
「そうだ。貧困に耐えかねたスラムの住人たちだった」

シンドバッドとマスルールが控えていた屋敷と、ジャーファル、モルジアナ、アラジンの見張っていた警備の薄い場所を改めて地図で見直してみる。ここですよ、と隣のジャーファルに教えられながら。なるほど、ジャーファルたちの方が海に近かったのか。

「しかし、飢えのあまりに貴族の屋敷を襲うなど……バルバッドは、以前より急速に貧富の差が拡がっているな」
「初見の私が少し見ただけでも、貧富の差がすごいと思ってしまうほどですものね」
「ああ。一体どうしちまったんだ」


国民の支持を得た霧の団がいるにもかかわらず、飢えた市民が自ら貴族の屋敷を襲うなど。
エリニカは思っていた以上にこの国の市民が貧しい生活を強いられていることを思い知る。ここまで民が貧しく荒れていることを承知で、この国の王族や貴族は暮らしている。ああ、本当、なんて人間なんだろうか。


「その理由の一端はこの国の経済の混乱にあるようです。近頃、帝国の介入を受けているようで…」
「どういうことだ?」


そうしてジャーファルが取り出したのは「煌」と書かれた紙幣。
若干眉を顰めながら、ひらひらと手にした紙を揺らす。


「これですよ。煌帝国が発行する紙幣"煌(ファン)"だそうです。しかも、更に調べたところ、バルバッド国王アブマド・サルージャは煌帝国の皇女と婚約をしているそうです」
「なんだと!?」

チッと舌打ちをしそうな勢いで、あのヤロー…と続けるシンドバッド。
朝の王への謁見に同席しなかったエリニカはわかりかねるが、煌帝国と繋がりがあることはシンドバッドには伝わらなかったらしい。というよりこの場合、あえて煌帝国との繋がりを伝えなかった、という方が正しいだろうか。



「それより、我々の当面の問題は、やはり"霧の団"ですよ。敵がジンの金属器やその他魔法アイテムをあれだけ擁しているならば……こちらも出方を変えねば厳しいかもしれませんね」


金属器を相手に丸腰やそんじょそこらの武器では通用しない。であるからして昨夜のような対立ではこちらが不利。そのことをわかってるエリニカはジャーファルの言葉に「うんうん」と頷いている。
はあ、とため息をついたジャーファルはエリニカを横目で見る。視線に気が付いたエリニカは、まさか、と次に紡がれる言葉に息をのんだ。


「勿論、エリニカを加えることを含めてですが、本国に連絡を取った方がいいかもしれません」
「そうだな。俺、今金属器ねーし…」


それは貴方の自業自得です、とは堂々と言えず。
ついに駆りだされてしまうのか、と。それでも主の命であるならば仕方がない。この盗賊退治、力を出そうではありませんか。不本意だけれど。


「にしても…"怪傑アリババ"……アリババねぇ…」
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっとな」

うーん、と手を口元へと持っていき考える仕草をするシンドバッド。唸る主をよそに、エリニカは気になっていたことをジャーファルへと問いかける。


「ところでジャーファルさんはアリババ見たんですか?」
「え?まあ見ましたけど」
「格好良かったですか?」
「…エリニカの趣味がわかりませんので、答えかねます」


そんなことより危険にならないように盗賊退治、手伝ってくれますよね?そう視線で訴えるジャーファルにエリニカは逆らえない。
そもそも金属器使いのいる盗賊を退治するということ自体、危険以外の何物でもないというのに。ジャーファルは“危険にならないように”と釘を刺すからひどい人だ。絶対に危険な目に合うなよと、最初から行動制限をかけて。

アラジンの友人で、モルジアナの捜し人で、盗賊の頭ときた。
どんな人だろうなあ、と場違いな思いを抱きながら、エリニカはくるくると指先で自身の髪をいじっていた。
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14.04.04.
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