留守番と称してこの国の勉強をしていた。けれどどうにも外が騒がしかった。どうやら盗賊が侵入し、応戦しているらしい。
最悪、怪我はするだろうが死にはしないだろう。あんな全裸同然な格好でこのホテルに戻ってはきたが、腐っても七海の覇王であるわけだし。何よりあのお方の強さを知っている。
だから変な心配をせずに眠りについてしまおう。この騒ぎは朝方様子を見に行けばいい。

そうしてエリニカは一旦寝台へと潜り、外の騒ぎをBGMに眠りについた。




朝、陽の登り始めた時間。

すぐに起きて外着に着替え、街の中でも被害の大きそうな場所へ赴いた。そこに必ず主がいると確信を持っていたからだ。
予想通りそこにいたシンドバッドと合流したエリニカは会話の中から昨日、なにがあったのかを想像する。


「にしてもなぁ…"霧の団"に"迷宮攻略者"がいるとはなぁ…」
「ええ。魔法アイテムをいくつか確認しましたが、そのうちの一つは確実に"ジンの金属器"でした。幸い、死人は一人も出ませんでしたが…」

シンドバッドとジャーファルの会話を聞きながら焼失した町の一部に目を向ける。これは酷い燃えようだと逆に関心を持ちながら、服の端が焦げた兵を見やる。
きっと長期間のもので疲労がたまっているのだろう。今回もやられたという悔しさの中に、疲労と、少しの諦めも入っているかもしれない。


「毎回"怪傑アリババ"のこの炎の壁で逃げられているそうです。国軍は打つ手なしですね」
「しかもそれが、アラジンの友人とはなぁ…」
「そうなんですよ。まさか"マギ"の友人が盗賊とは思いませんよね……」
「えっ」

耳にしていた会話に、思わず口出しをしてしまった。自然と出た驚きの言葉は既に取り消すこともできず、仕方なくおずおずとシンドバッドとジャーファルの会話に入っていく。
話の腰を折ってしまい、申し訳なさがエリニカの全身から感じとられるが、二人とも腰を折られたなど思っておらず特に気にしていない。寧ろシンドバッドは話を聞いていたのかと驚いているくらいだ。


「あの二人の探していた友人が、その“怪傑アリババ”だったんです」
「皮肉なものだな。探していた人物との対面が、あんなだったんだ」
「そう、だったんですか」

だからだろうか、焼失した建物をぼう、と静かに佇んでいるアラジンの背中が悲しく思えたのは。
友人との再会は決していいものではなかっただろう。いいものであったのならアラジンは喜び、そうしてこの場にその友人がいるに違いないのだから。



「そもそもその“怪傑アリババ”はどういう奴なんだ?」
「市民の話によりますと…半年ほど前から"霧の団"で活躍し始めた人物だそうです。国庫から奪った物を市民に配る際には、必ず彼の名前が使われているので市民に英雄視されているようです」
「フーン。盗品ばらまいてヒーローか、おかしな話だな」

シンドバッドが瞳を薄くして辺りをみる。残念だというような眼差しは路地の裏へ、そうして昨日焼かれた建物へと。

「エリニカの見たことも事実、それだけこの国が荒れてるってことだな……」


路地の裏から女性の「キャー!」という声が聞こえる。路地の薄暗い空気がエリニカを酷く嫌な気分にさせた。
この国は変われないのだろうか。兵も市民も同じ場所を目指して、高らかな希望へと足を運べないのだろうか。

呆然と佇むアラジンを見ていると、同じくアラジンを見ていたであろうモルジアナが何かに反応をする。くんくん、と辺りを見渡しながら鼻をひくつかせていた。


「モルジアナさん、どうかしました?」
「あ、いえ…」

くんくん、と鼻を利かせる彼女は、動物のように辺りを探っている様。ファナリスは体力や戦闘能力だけでなく鼻でさえも人間離れしているのかと関心を寄せる。

「すみません、アラジンをお願いできますか」
「ホテルに送るってこと?」
「はい。少し用事が出来ました」

よろしくお願いします。そういってモルジアナはエリニカに頭を下げ、くるりと背を向けて走っていく。どこに行くの、用事って何。そんなことを聞く暇さえ与えることなく、彼女は言ってしまった。
出会ったばかりの人間に詳しく行き先を告げないのはわかるが、連れであるアラジンを任せる程には信頼されているのだと思う。…そこまでならば行き先を告げてもいいとも思うが、彼女は彼女なりに今の現状でいいと思うことを選んで行動したのだろう。ならば何も言うまい。モルジアナに頼まれた通り、アラジンを無事に送り届けようではないか。



「シン様、まだお帰りにならないですよね?」
「ん、ああ。俺たちはもう少しここにいるが」
「私、アラジンくんと先にホテルへ戻っていてもいいでしょうか」

視線だけアラジンへと動かし、どうかとシンドバッドへ意見を求める。
あの様子では声をかけない限りアラジンはあの場から動かないだろう。…いや、動かないというより、声をかけなければ居座り続ける。何かが抜けてしまったように佇む彼には声をかけるべき誰かがそばにいた方が安全だ。
そのことを理解したシンドバッドはエリニカの言葉に首を縦に振った。

「わかった。アラジンと先にホテルへ戻っていろ」
「承知しました」


お気をつけて、とは言わなかった。金属器なぞなくともどうにかなるだろうと思っていることもそうだが、シンドバッドには今ジャーファルとマスルールがついている。何かあった時も二人がいれば大丈夫だと確信をしているから。

立ち尽くすアラジンに声をかけ、気弱な返事を返される。頑張った様子で笑みを見せるアラジンに、そんなに無理に笑わなくてもいいんだよ、と頭に手を乗せ後ろから肩を押す。
昨日の元気なアラジンくんに戻りますように。エリニカはそう思いながら、彼の肩に乗せた手に少し力が入った。
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14.04.02.
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