作戦会議をするということでシンドバッドの部屋へと通されるアラジンとモルジアナ。作戦会議を仕切るのは情報を取り扱うジャーファルと言うことで、シンドバッドは進行をジャーファルへと丸投げをした。
少なからずエリニカもここに寝泊りをしている身なので、否が応でもこの作戦会議には同席しなくてはならない。


「はい…では国群や、市民から集めた盗賊団の活動傾向をお伝えします」


一つ、彼らが動くのは霧深い夜。バルバッドは霧の街。海からの風がおかにぶつかりよく霧が発生する。どうやら彼らはその霧に乗じてやってくるらしい。
二つ、狙いは国の倉庫や金持の屋敷である。十数人、小ユニットで動き、金品・食料・武器を奪い去る。
三つ、…とジャーファルが気がかりなことに、と口を挟んだ。


「彼らは毎回警備の裏をかき、国軍の手が薄いところを狙います。内部からの情報が漏れている可能性が高いです」

地図を指さしながらここだったり、と指示しているのは性格だろう。その説明にアラジンも頷きながら、シンドバッドの隣でジャーファルの話に耳を傾ける。
今回の活動に参加はしないものの、エリニカもこの話は勉強になるために聞いているが、やはりジャーファルの教え方はわかりやすいなと感じていた。


「さらに厄介なことに、市民の多くが彼らに協力的です。街に逃げ込まれたら見つけられません」
「盗賊なのに街の人が協力するの?」
「はい。彼らは奪った金品を貧しい市民に分け与えるので、義賊、と呼ばれ人気があります」
「義賊?」
「義賊っていうのは、お金持ちから奪った金目のものとかを貧しい人たちに与えるような、そう貧しい人たちの味方に立つ人ね」
「エリニカのいうような方たちなので、人気があるというわけです。中でも最近人気なのは…"怪傑アリババ"と呼ばれるリーダー格の男だそうです」


モルジアナとアラジンが“義賊”という単語にひっかかったのか、ジャーファルに向かって顔を傾げている。その単語は知っていたので、エリニカがジャーファルの代弁で義賊の説明をする。
これでもシンドリアに来るまで放浪をしていた身であるし、一族を出るということは知識も持っていなければならない為、エリニカはそれなりに知識がある方だ。言い伝えと共に色々な知識を詰め込まれたと言っても過言ではない。シンドリアに来てから学んだことも多いが。
知識を増やすのは楽しいし、何よりそう言ったことに関してシンドバッドやジャーファルが「もっともっと」と提供をしてくれるので献身的にその機会を受け取っているのが常である。

アラジンが下に顔を向けて何やら考えていると、モルジアナが疑問を抱く。「国民が支持している人間を捕まえてしまうことは正しいことなのか」と。



「…俺は、正しいと思っている。"霧の団"は義賊と呼ばれる。先ほどエリニカが言った通り"義"のために動く盗賊ってことだ」

実際に国庫から奪った金を市民にばらまき支持を得ているものの、それもほんの一時にすぎない。シンドバッドは勿論のことエリニカも、国内が乱れている事実を目にしている。
支持を受けているとしても貧しい路地裏の国民にまで行きわたるはずもない。それこそこの国が、国を挙げて取り掛からねばと言うほどにまで広がっている貧困。支持を得て大きな義賊であったとしても国民全員を救えるものではないのだ。
つまりシンドバッドが考えるに…

「それは盗賊行為を正当化するための行動では?…とかね。まあそんな具合に俺は自分で、自分の頭で考えて、正しいと思える答えを出した。君たちも考えて自分で決めてくれ」


何がいいのか精一杯考え、自分たちの導きだした答えを信じて行動してほしい、と。



「俺はそうやって道を切り開いてきたが……君たちはどうだろうか?」


主の言葉にジャーファルは微笑み、マスルールは変わらず無表情に黙りこくっていた。アラジン、モルジアナはシンドバッドの言葉を受け止めている様子。
初めは参加しないので呑気に構えていたエリニカだったが、アラジンやモルジアナの真剣な表情に頬が緩む。いいなあ、そうやって精一杯取り組めて、と羨ましく思いながら。


「僕も考えてみるよ」
「…私も」
「よし」



ではまた晩に。そう言ったシンドバッドにアラジン、モルジアナは部屋を退出していく。
アラジンに手を振られモルジアナにお辞儀をされたので、エリニカはひらひらと笑顔で手を振り返した。二人の姿勢を見習うべきだろうかと、姿の見えなくなった扉を確認して手をおろせば後ろから声をかけられる。


「…で、エリニカはどうするんだ?」
「え。行きませんけど」
「それがお前の出した正しいと思う道か…」
「私そこまで強くないですし!いやです!」
「何を言ってるんだ、お前それでも翡翠だろ」


“翡翠”という言葉がこういうときにだけ重い。
確かに一族を出れば戦うことを強いられる、ということはよくあること。ファナリスには敵う筈もないがそれなりの戦闘力は持っている。それを武器にしている同族もいるし、一族を出た男は大抵こちらを武器にして生き延びているという話はよく聞いた。女ではあれど、エリニカもそれなりに戦闘力はあるし、だからこそ“翡翠の乙女”として一族を出てきたという理由もある。
しかしエリニカの色々な事情を踏まえ、今回は不参加をとった。

「……そう、ですけど」
「エリニカ、シンは貴方の力を認めているんですよ」
「そうそう、ちゃんとお前が強いことくらい知っている。努力をしてることも」

大きなシンドバッドの手がエリニカの頭にのる。そのままわしゃっと豪快に撫でられれば髪の毛が乱れるもの必然。それを承知でシンドバッドは頭を撫でるのを止めない。
それを察したエリニカは失敬ながらもシンドバッドの手を自身の頭から退け、ああ、もう!と言い放った。


「でも私は行きませんからね!」
「なんでだよー」
「エリニカがいかないと言っているのですから、無理強いはだめですよ」
「これも経験だぞ?」
「今日捕まえられなかったら、明日考えてみます。…それでいいですか、シン様」


その答えに、シンドバッドは笑顔で頷く。再び頭を撫でられ、髪の毛が乱れるエリニカにジャーファルが小さく笑った。
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14.02.20.
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