とりあえず金属器がないことと協力してほしいこと、何に協力してほしいかと言うと、金属器で本領発揮ができないシンドバッドのために、霧の団をつかまえることに協力してほしい旨を伝える。 「“霧の団”を捕まえる!?」 「そう。この国を今騒がせている盗賊“霧の団”を、俺たちで捕まえるんだ」 「…!」 「ちょっと待ってください、シン!」 それに制止を掛けたのはジャーファル。アラジンたちはシンドバッドの話に追いつけていないのか、はたまたすごいことをしていると驚いているのか。どちらかは分からないが口を開けて話を聞いている。 「何言ってるんですか!?!こんな小さな子供にそんなことさせていいワケがないでしょう!?年端のいかない子供に、危険なことをさせるワケにはいきません!」 ジャーファルの言い分もわかる。それにシンドバッドは助けてもらった恩人に当たるが、出会ったばかりのしかも子どもに「盗賊を一緒につかまえてくれ」なんて頼める者がいるものか。 今回はマギであって、常識を超えた力を持っているので特別であるが。 必要であるのは年齢ではなく"能力"。そして他者より優れた能力を有するもの。 「彼にはそれが備わっている。お前にもそれはわかるだろ?」 そういわれ、ジャーファルは口を噤む。納得のいかない顔をしてシンドバッドを見つめて。 隣に立つマスルールは表情を変えず繰り広げられるものを黙って見ているだけであるが、エリニカも今回のこの誘いには乗り気ではない。マギであるアラジンは今の自分たちにとって大きな戦力にはなるだろうが、未だ子ども。しかも同行人のモルジアナはファナリスではあるが少女だ。大人の都合で子どもを巻き込むのはどうかと思う。 それにもともとこの「盗賊退治」に対しても乗り気ではない。国がつかまえられない盗賊を、金属器のない少人数で退治ができる確率は完璧でないためだ。勿論主人が負けるなんて思ってはいないし、信じてないわけではないものの…。 「盗賊退治だって…どうしよっか?モルさん」 「………」 少し考えた後、モルジアナは決意をした表情で応える。 「やりましょう」 それは勿論彼女の行き先の船を止めている原因が「霧の団」であるからと、ここでシンドバッドに協力をしておけば国王と親交があるために探している人物の手掛かりをもらえるかもしれないから。 無口であるが、この子はしっかりと考えて行動をしている。行き当たりばったりの考えではなく、どうすれば己に有意になるかを考えられる。ファナリスとして強靭な力を持つであろう彼女は隣に立つマスルールより考えて行動するタイプらしい。まあマスルールさんが頭を使って考えて論じている姿も逆に怖いけれど。 そうしてモルジアナの言っていた通り、シンドバッドは人探しの件を国王に掛け合い、暗黒大陸行きの船を手配する条件をのむ。 「うんっ!!やるよ、“盗賊退治”!!」 「そうか!ではアラジン!さっそく作戦を練ろう!」 「うん!!」 がしっ!と手と手を取り合ったシンドバッドとアラジン。 ああ、ジャーファルさんの顔がまだ険しい。この状況に早く気付いてください、主よ。マスルールさんは本当無関心のごとく表情に何も出していないし、でも主の言うことだから逆らえないし。ジャーファルさん、その険しい表情は私も顔に出さないだけで心は同じです。 「そしてモルジアナ!君は宿で待っていてくれ!」 「…あの、私も戦います…」 「いや、いくら“ファナリス”でも女の子を戦わせらんないよ。うちのエリニカも今回は様子を見て部屋で待っていることになっているんだ」 いきなり出てきた自分の名前に驚く。私に振るなよ、と思いつつも、モルジアナさんが私の方を見てきたので主の行っていることは本当だ、という意味を込めて小さく頷いた。 「だからここは男の俺たちに任せて部屋で待っていてくれ!なっ!」 シンドバッドに背を押されながら歩くモルジアナ。不満たっぷりの表情で足を進めた瞬間、メシャア、という凄まじい音で地にヒビを入れる。片足だけで石を割る姿にシンドバッドは青ざめながら背中を押す手を止めた。 「私も戦います!目的のために、盗賊団をいくつだろうとしとめる覚悟です」 むすっと不満の意を全開に戦いたい旨を伝える。それにのっかりアラジンもモルジアナの強さを後押しする。 自分は今回、戦う目的できた訳ではないし不本意な現在の展開についていきたくないから参加はしないが、モルジアナはファナリス。アラジンも認める強さであるのなら参加しても申し分ないのではないだろうか。 先ほどまでは出あったばかりの少年少女に協力を求めるのは…と思ってはいたが、目的をもった人間ほど強く頼りになる存在はいない。この盗賊退治には心の底から賛成しているわけではないが、勝率を上げるためにも頭を使って考えられるモルジアナは参加しても平気だろう、と思えた。 「いいんじゃないですか。モルジアナさんは戦いたいと言っているんです」 「あ…ああ…」 「それにマスルールさんと同じファナリスなら、心強いですしね」 「そうだよ!モルさんは絶対力になるよ!」 「アラジンくんもこう言ってることですし、ね、シン様」 ジャーファルさんには申し訳ないけれど、今回はモルジアナさんの肩を持ちます。だって人捜しのためにこうやって決意してくれたんだし、同性として味方してあげたくなっちゃったんだもん。 ―――――――― 心情はジャーファルさんと同じですが、懸命に人捜しをするモルジアナの肩を持ちたくなってしまったのです。 14.01.25. |