2020.Christmas! | ナノ
恋人がサンタクロース


「Merry Christmas!」
「はあ…」

奇抜な格好で室内に入ってきたのは、恋人である日々樹渉だった。やけに発音のいいメリークリスマスに、赤と白の特徴的な服。いわゆるサンタクロースの格好をした恋人が登場したのである。
こちとら室内でも暖をとろうと炬燵に体を突っ込んでいたので、突然の登場とテンションの差に、気の抜けた返事しかできなかった。

「おやおやぁ?双葉さん!こんな楽しい日に浮かない顔ですねえ!!」
「日々樹先輩がやかましいからじゃないですか?」

とりあえず寒いから入ってきた扉を閉めて欲しい、と淡々と告げれば、彼は嘘泣きをしながら要望通り扉を閉める。

「なんと!悲しいです…双葉さんを喜ばせようとしただけなのに…!」

そういうのがやかましいんだって。など、口にはしないが目は語っている。自覚もあるし、わざとやる。
たぶん持っている袋のなかには私へのプレゼントがあるのだろうし、そちらは多いに喜んでいるのだが。

「なんて、こういうのはお嫌いでした?」
「嫌いではないですけど」

普通の渡し方とか出来ないんだろうな。それが日々樹渉という人なのだろうし。そんなのは今更だ。

「わたしの性格はご存じでしょう」
「はい、だから何かするだろうなとは思ってました」
「それを分かっていながら止めないのは、あなたなりの優しさでしょうか」
「止めてもやると分かっていたら、止めませんね」

自分と彼のこの熱量の差は恋人としてどうにかできないものかと、よく悩みの種に上がる議題だ。考えるだけ無駄であるから、こちらが妥協するしかないのだけれど。


「それでは雰囲気を変えまして」

と、一気に彼の纏う空気が変わる。
先程までは陽気なサンタクロースだったのに、今では異国の王子にも成り得そう。そのキリッとした顔に赤い服装がミスマッチで頭が混乱しそうだ。
どちらの彼を信用したらよいのか。わからないまま、手をとられる。そのまま手の甲に口づけをされ、されるがままに彼の頬に手が添えられる。年のため、自分では動かしていないので全て彼が主導していることだ。

「こういった、しっとりとしたものがお好みですか?」
「っ…!!」
「おや?ずいぶん可愛らしい反応ですねえ」

あまりに変わりすぎた雰囲気に、甘く鋭い視線に、ドッと身体中が熱を持ち始める。

「ひ、びき、先輩」
「連れない呼び方ですねえ。こういうときは、お教えしたでしょう」

指先までもが熱くなり、彼の頬が冷たく感じる。私の全身が熱に浮かされたようにほてっていくのに、彼は全然動じない。穏やかな笑みを向けながら、落ち着いたトーンの声色に、更に熱が込み上げる。

「私の名前は?」
「わ、渉、さん」
「はい!あなたの日々樹渉です。…今日は、あなただけの、日々樹渉になりましょう」

腕を引かれて抱き締められる。もう雰囲気と格好がちぐはぐなことなんて、考える余裕はなかった。
目の前の赤い服と、流れるような髪に鼓動が鳴り止まない。包み込まれた熱が、もっともっとと心臓を掻き立てるのだった。

2020.12.23.