2020.Christmas! | ナノ
イルミネーションよりも


この時期…クリスマス間近のアイドルは忙しい。だが恋人らしくデートはしたい。と議論した結果。当日ではなく、早めにクリスマスデートをしようということになった。
街中は既にイルミネーションで彩られ、クリスマス一色。冬仕様のオブジェは昼間は子供たちを楽しませ、夜はライトアップで大人たちの甘い時間に刺激を与える。

今回のデートプランは日和さんに任せている。張り切っていた彼に全て任せていたら、金銭的な面での心配があったのだが…楽しそうにしている姿を見たら任せるしかなかった。
しかしそんな心配も吹き飛んでしまうほど。彼に連れてこられた場所は、きらびやかなイルミネーションで彩られている。

「うわあ…」

あまりに明るく、綺麗な景色に、隣に立つ日和さんの腕をぎゅっと抱き締めた。その反応は彼の気分を上々にさせたのか、頭上からは「ふふん」と得意気な声が聞こえる。

「きれいでしょ?双葉ちゃんとみたかったんだよね」

思ったほど人通りが多くなく、穴場らしいスポット。日和さんなりにアイドルであること、恋人とのデートということを加味して選んでくれたらしい。
それが嬉しくて、綺麗なイルミネーションを前にして更に自分の気持ちが跳ね上がるのがわかる。
貸しきりにするのではなくて、お忍びデートでもばれにくい場所で、かつ妥協は許さない。そんな手段を選んでくれたことが嬉しい。まあ日和さんにすれば貸しきりなんて簡単なのかもしれないが。

「…双葉ちゃん」
「はーい」
「ねえ」
「はいはい」

あ、あそこ動いてる。仕掛けがされてる。なんてイルミネーションを隅々まで見ようと身を乗り出しながら歩いていると、日和さんが声をかけてくる。
堪能しようとしていた私は適当な返事をした。だって今は目の前のイルミネーションに視線を奪われてしまっているのだから。

「ねえってば」
「もう、なんです、っ!」

ぐ、と腕を引かれ、顎を持ち上げられて。唇に触れる柔らかな感触にキスをされたと自覚する。
目の前の麗しい日和さんの顔に、少し潤んだ瞳は周りのイルミネーションの明かりを吸い込んでまばゆく輝いている。

「………ぼくのことも見て」
「いや、イルミネーション見にきたんですよね…?」
「そうじゃないの!!」

彼の瞳に映るまばゆさに視線を奪われながら、この人も負けないくらい輝いているなぁ、なんてしみじみと思った。その気になればイルミネーションなんて目に入らないくらい、日和さんに夢中になれるだなんて恥ずかしくて口には出さないけれど。

「見終わったら日和さんしか見ないですってば」
「ぼくより綺麗なイルミネーションだもんねっ」
「何ですかその拗ね方…」

正直、日和さんに言われて、イルミネーションに気をとられすぎていたと反省する。ちゃんと恋人としてデートを考えてくれた彼を蔑ろにしすぎたな。

「日和さんもきれいでかわいいですよ」
「ふんっ そんなお世辞要らないね」
「あ、そうですか」
「……嘘!嘘だね!もっとぼくのことお話しして!」

お世辞でもなく本音に近いんだけどなぁ、と恥ずかしくなりながら口にして見た言葉はあまりお気に召さなかったらしい。でもそっけない態度になれば彼は気を引きたくてすがってくれると知っているから、そんな態度をとってしまうけれど。

「大丈夫ですよ。わたしの主役は日和さんしかいないから」

ちゅ、と背伸びをして彼の頬に唇を当てる。音なんてならなかったけれど、押し当てた先の白い肌は、次の瞬間に赤く染まった。

「もう、双葉ちゃん!するならこっちに欲しいね!」

先程よりも優しく重ねた二度目のキス。わたしの視界はイルミネーションではなく、大好きな日和さんで満ち溢れている。

2020.12.23.