Love call me.


07



「んんっ…」

塞がれた唇は重なるだけでは済まされない。舌が唇を這い、隙間から侵入したそれは口内を舐めあげた。唾液が絡み付く音が耳に響く。時折混じって聞こえるのは吸い付かれる下品な音。じゅる、とわざとではないかというほど音をたてて。噛み千切ってやりたい衝動に駆られるが、相手はアイドルだ。舌先だって傷をつけたらいけない。歌う姿を思い返し、舌だって身体の大事な一部で、角度によっては露出する。ここに傷なんてつくったら事務所がなんていうか想像がつかないほど馬鹿ではない。諦めて大人しく絡む舌にされるがままになっていると、暫くして唇は離れた。
熱を帯びたように頬を赤く染めた巴さんは、楽しそうに口を歪ませ目を細める。舌舐めずりをする姿に、一瞬ぞくりとしてしまった。恐怖からか、興奮からか…考えたくなかった。制服のブラウスのボタンに手がかけられる。ぷち、と音がするのではないかというほど静かだ。胸の部分が開かれ、キャミソールと下着が彼の目の前に出現する。キャミソールは捲られ、下着はフロントを指先で引っ掻けるようにして浮かされ、下げられる。胸の全貌はまだ見せていない。際どいところで下着を動かされ、もてあそばれている。

「ひぅっ」
「白い肌だね」

下着で遊ぶのをやめた彼はゆっくりと顔を胸に近づけた。ちゅ、と先ほどまで重ねていた唇が胸の谷間に触れる。優しく触れて、べろりと舌が肌を這った。なま暖かいものが肌を這う感覚にぞくりと背中が震える。柔らかな感触を唇で堪能しながら、下着から零れ落ちた胸を包み込んだ。

「っ、」
「ふふ。柔らかくて気持ちいい」
「ぁ、…ともえさん、そこ、っダメ…!」

持ち上げるようにして触られると簡単に形を変える胸。零れた中身は先端も露出し指先で触れられる。谷間と柔らかい部分へ舌が這い、ぞくりと鳥肌がたってしまう。何をしても無駄だ。始まってしまった行為に止まることはできないと頭を過った。
先端が舌で遊ばれ、吸われ、指先でも弄られる。胸への愛撫が想像よりも丁寧に行われていることに気恥ずかしくなり、彼の顔が直視できない。自分の声が自然と漏れ出てしまうのにも耐えられず、下唇を噛んで耐えていた。なのに。


「噛んだらダメだよ。痛いでしょ」

胸を弄っていた指先が唇を掠める。噛み締めていた下唇が優しく撫でられ、口に指が侵入した。歯をたてることも出来ないまま口が開かれる。歯茎を撫で舌を追い、私の唾液で濡れた指先。彼はそれを躊躇することなく口へ持っていき、見せつけるように舌をだして舐めとった。それでも足りないというかのように、今度は口を合わせる。油断していた私はまたもや舌を絡めとられてしまう。鼻で息をするものの、酸素が足りないのか意識がふわふわとしてくる。柔らかで熱い舌同士が触れあうと余計に思考が遮られる。目の前のことしか考えられなくなるほどに。
息継ぎをしながら、か細く声が漏れ出て口付けが続く。ちゅ、と音をたてて離れたかと思えばまたすぐにくっついて。巴さんの吐息も熱くて、自分も熱く火照っていて、このまま続けたら溶けてしまいそうだ。そんなことを考えていると、ゆっくりと名残惜しむように唇が離れていった。体重をかけるようにして覆い被さっていた巴さんが、上体を起こして私を見下ろしている。

「ねえ、英智くんは名前で呼んでいたよね」
「え?英智先輩…?」
「そう。ぼくのことも呼んでごらん?“日和”だよ」

突然のことについていけない。呼び方の話?突然何を言い出すかと思ったら、そんなこと。大体よく知らないのに名前で呼ぶなどできない。例え今、無理矢理犯されようとしている状況の相手でも。例え自分のことをお気に召してくれている相手でも。

「む、むりです」
「無理じゃないよ。日和、はい」
「いや無理です…」
「ひ、よ、り」
「……巴さん、」
「つれないね」

唇を尖らせながら頬を膨らませる。この状況のなかで、噛み合わないくらいに可愛らしい表情だ。さっきまで濃厚な口づけをしていた人物とは思えない。…なんて、隙ばかりみせている私は簡単に追い詰められてしまう。

「早くぼくの名前を呼んで」

耳元でゆっくりと低い声が直接脳へと響くよう。可愛らしいなんて言葉で表現したのが馬鹿だった。彼は紛れもなく男で、綺麗だけど可愛らしいなんて言葉からは遠くて。低く響いた声にドッと鼓動が早まった。全身を駆け巡る血液の速度が加速する。熱く火照って、脳が正常に働いてくれない。喉の奥から絞り出すような声が漏れ出そうになり、それを聞かせまいと口を覆うように手を動かせば、彼は察したのか私の両手をベッドへ縫い付けた。もう逃げられない。完全に。押さえつけられた手が触れている彼の体温は高い。そのことが拍車をかけ、私の心臓はまだまだ速度を落としてくれなさそうだ。小さく喘ぎ声が漏れ出る唇を、彼はじっと見つめている。私の唇が彼の名前を紡ぐのを待ちわびているかのように熱い視線が注がれている。

「ひ、より、さん…っ」

私の腕をベッドへ縫い付け、見下ろす彼の表情に耐えきれなくなった私は小さく喘ぐように彼の名前を呟いた。こんな熱い視線、浴び続けたら焼け焦げてしまう。どろどろに溶けてしまう。それどころか熱されて気化してしまいそうだ。

「良くできました」

甘く優しい声が耳に届く。思考が溶け落ちてしまいそうなほどドロリとした感情を伴ってわたしを支配する。熱い視線が、更に熱を帯びたように潤んだ視線へと変化したような気がした。もうやだ、私はこの人に、塗り替えられてしまいそうだ。怖い、けれど逃げられなくて、いっそのことこのまますべてを投げ出してわたしを放棄したくなる。相反する感情を整理しきれないわたしを置いてきぼりにしながら、彼は露出した胸を撫で、その手がゆっくりとお臍から下腹部へと撫で落ちた。


「ぼくがちゃあんと愛してあげる、ね」

下腹部がずくん、と震える。熱さでおかしくなる思考はもう止められない。私はこれから、どうなってしまうんだ。

2020.02.11.
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