Love call me.


06



腕を引かれて移動した先はさっきから話題に出ている隣の部屋だった。確かに隣の部屋は一人用というべきか、Eveの二人部屋よりは狭くこじんまりとしているワンルーム。一般的なものと比べると広いので窮屈ではないのだが、Eveの部屋を見ているからか狭さが一際目立った。

「ちょ、まって」

一層強く掴まれた腕は今にも折れそうな程。後ろ姿の巴さんの表情はわからないままで、私は一体どうしたらいいんだろう。
乱雑に二人靴を脱いで部屋に上がれば勢いをつけて放り投げられる。体に強い衝撃はなく、代わりに柔らかな弾力のある場所へ放られたようだ。身体を起こそうとすれば許さないと言わんばかりに身体を押さえつけられる。ギシ、と下が揺れる感覚がして、自分の身体が影に隠れた。

「君はほくのものだって、形からちゃんと入ったのに。まだわかってないおばかさんなの?」

この部屋にはわたしと巴さんだけで。視界には彼と見慣れない天井がうつっている。押し倒されているんだという自覚はここでした。下が床ではなくベッドであろう事にも気が付いた。自分の置かれている状況が、最大級にヤバイということも。

「君がほしいってウィンターライブからずぅっと思ってた。もうぼくのものにしてもいいよね」
「ど、どうしてそうなるんですか!」

この状況ですることなんて限られている。男女で、密室で、ベッドの上。さらに押し倒されているときた。することが限られてるっていうか、することなんてひとつじゃん。健全な高校生だし、少女漫画だって嗜む自分は今後の展開が読めている。外さない自信もある。外れてほしいと願わんばかりだけど。
こういったことは想いを交わしあった恋人同士のすることで、一方的な関係の間柄でするようなものではない。コミュニケーションの一つとしての手段ではあることも分かっているが、それは根底に互いの了承があった上で、が前提的だ。そうだと思っている。そうだと信じたい。今の私たちは“互いの了承”がないまま進んでしまっている。だからここで一旦立ち止まって、おかしくないですか?と問いかけてみた。目の前の巴さんは首を傾げて不思議そうな顔をする。

「どうしてもこうしても、理由がいるもの?衝動的なものに理性を求めても無意味だと思うけどね」

衝動的…心動かされるままに行動したというのだろう。確かに理性を伴ったものではないことはわかる。だって常識的に考えて、人間を連れ去って手に入れるだのなんだのということはおかしい。そこに理性がちゃんとあるのなら別の手段を選んでいるはず。それが出来なかった。理性はなく突き動かされた行動に理由なんてあるのなら、それはこじつけでしかない。
彼のいうこともその通りなのだが、衝動的なものに私は振り回されて、今を不安定にされている。とても不快で嫌なことだと思う。だって衝動がおさまってしまえば私の意味はどこにいくの?ここに取り残されて、捨て置かれてしまうだろう。そんな曖昧で不確定なものに私を捕らえないで。

「衝動的なもの、一時的なものだって、いうんですね」
「やだなあ。一時的だなんてぼくは言っていないね。衝動に駆られてずっと君を求め続けてるのに」

アメジストの瞳はまっすぐに私を写している。目に見えない拘束をされてるみたいに身体が動かない。彼の瞳に写る私はどこか、怯えているようにも見えた。

「手に入ってしまったら満足してしまうんじゃないんですか」
「どうだろう。満足してしまうかもしれないけど、それで捨てるつもりはないからね」

威勢を張って、奮い立たせて声を出した。けれど彼が伸ばした手にびくっと反応してしまい、恐らく私の虚勢はバレている。彼の手は指先で私の唇に触れ、そのまま耳と首へと移動して視線を逸らせないように首裏を固定される。薄く歪められた瞳は怖さと情欲を孕んでいる。

「このまま身体を奪っても、わたしの心は奪えません」
「すきなひとでもいるの?」
「…いません、けど」
「ならぼくにもチャンスはあるってことだね!」

好きな人でもいたのなら解放されただろうか。…されるわけなんてない。どの状況であっても、わたしが彼から逃げられるなんて出来やしないのだろう。強引で柔らかな檻に閉じ込められて、水の中に沈められたように呼吸ができなくなる。今まさに彼に沈められるところ。

「身体を先に手にいれたとしても、ぼくは君の心も手にいれる。きっときみは逃げられないし、忘れないでしょ」

当たり前だ。絶対に忘れることはないだろう。このままここで身体を奪われて、きれいさっぱり忘れることなんてできやしない。記憶にこびりついて抉るように傷つけてくる。
固定された私の顔はあっという間に彼との距離をなくす。体重をかけられて身動きが取れず、更に首から手が離れればそのままの流れで身体を撫で上げられる。巴日和という檻に閉じ込められてしまった私は、重なった唇に、侵入する大きな手に、柔く抵抗を示しながら受け入れるしかなかった。

2020.02.06.
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