Love call me.


04



最初に言われた通りわたしのプロデュースは必要とされないままEveのレッスンが終わった。私を残して二人はシャワーで汗を流しに行ったが、それはそれは丁寧に鍵をかけて出て行かれた。一人になりたかったからよかったけれど。
今まで夢ノ咲のアイドルたちのレッスンばかり見ていたので新鮮な気持ちで見事に引き込まれていた。パフォーマンスは確かにライブで見ていたけど、見方が変わるとこんなにも感じ方が違うのかと驚いている。簡単に人をさらうというおかしな部分はあるけれど、彼らには感心してしまう部分がある。というか自分たちの魅せ方を分かっているんだ。ちょっと学んでいけないかな…なんて場違いなことを考えた。

シャワーから戻ってきた二人はさっぱりとして、もとの制服に戻っていた。帰り支度をしていた彼らは最後にわたしの足枷を外し、チョーカーは着けたまま。取り外しのできる鎖から解放する。そのまま二人に左右を固められながらレッスン室を出て校門に待機していた車に乗り込んだ。…のはいいが、配置がおかしい。右に漣さん、左に巴さん。挟まれる私。居心地がいいとか悪いとかそういう問題じゃない。完全に容疑者みたいになってるじゃん。

「な、なんで私が真ん中…」
「逃走防止で固めてます」
「走ってる車から飛び降りなんてしないです」

信号で止まったときはチャンスだと思うけれど。流石に時速何十キロで走ってる車からは逃亡しません。我が身はかわいい。車内は広々としているが、何せ三人で座っているので狭い気がする。二人は結構ゆったり座ってるけど、車の全貌を思い出した私はゆったり座ることなんて出来ない。無理。そんな時ちょうど車が左折をして身体が漣さんの方へと傾く。縮こまっていたが揺れた身体をまっすぐに保つのは難しく、そのまま右横の彼に体重を少しかけてしまった。

「ごめん漣さん」
「別に大丈夫っすよ。つーかそんな縮こまんなくていいのに」
「縮こまるでしょ…」

普通に自動車通学とかやばくない?というか長さはそんなにないけどリムジンじゃん。恐ろしい…財閥の息子…。リムジン通学。英智先輩は勿論のこと、桃李くんも朱桜くんも送迎されているのは見るけど!金持ちの家は全員こういう感じなの?!別に争う気は更々ないけど、格の違いに語彙力が死ぬ。

「どうしてジュンくんの方にずれてるの?」
「………」
「双葉ちゃん?」
「…………」

巴さんの言葉に言葉で返事をしていないのには理由がある。帰り際にもう一度トイレに寄りたいと言うと、またトイレを出たすぐのところで待っていたから。だから!出入り口にいられるの!恥ずかしいんですって!と説明するが多分あまり分かっていそうになかった。漣さんは少し離れたところで待っていてくれたから喋っている。

「まだトイレのこと引きずってる?」
「当たり前ですよね!?トイレいけない屈辱、まさかのトイレの前で待ってるという羞恥心!わかります!?しかも2回も!」
「分かりたくないね」
「きぃ〜〜〜!」

帰り際のことも含め、最初のトイレのことも含め、巴さんには怒っているのだ。それだけではない。今の現状、私がさらわれた元凶は彼なのだから。
本当に今日、授業をサボって買い出しに出掛けた疲労たっぷりの自分を引き留めたい。サボって衣装を作るのは多目に見るとして、買い出しに出るのは軽率だった。プロデュースしていたユニットはどうなっているだろう。来週末にイベントを控えているのに…明日はレッスンを見る予定だったはずだ。衣装だって終わったわけではない。追加で色々付け足したくて買い出しに出たのだ。その買い出しをする前に拐われてしまったわけだけれど。

「…そういえば、英智先輩には本当に言ったんですか」

ふと思い出したのは今の状況だ。普通にさらわれていたのであれば私は行方不明扱いになっているはず。だがそれもなさそうだし、目を覚まして最初の方で何か言っていた気がする。プロデューサーを一人もらったよ!みたいなこと。あの時は疑いもしなかったけど、私を言いくるめるための材料としてついた嘘のこともあり得る。もう夢ノ咲に戻れないかもなんて、今は信じたくない。もし本当に言っていたとしても否定をしてほしい。

「うん、本当」
「そ、う、ですか」
「英智くんには用件だけ言ってさっさと切ってしまったけど」

その後、連絡はないなあ。携帯を弄りながら言う彼は連絡がないか見ているのだろう。彼に連絡はいっていなくても、私に直接連絡が来ているかもしれない。が、肝心の携帯がないのだ。恐らく荷物と共に没収保管されているはず。その荷物もどこにあるのかわからないから手出しはできない。手詰まり感半端ないことこの上ないな。

「君はあまり期待をかけられていなかったのかな」

確かにあんずではなかったけれど、革命を起こす女神なんて言われるような業績は残していないけれど、わたしはわたしなりにプロデューサーとして仕事をしていたつもりだ。プロデューサーが誰もいなくなるわけではないから学院的には問題ないだろう。あんずには多大なる迷惑がかかるけど…。
アイドルたちも今までプロデューサーがいない状態でもやっていたのだし、出来るユニットはプロデューサーが一人いなくなった状態でも維持出来ているだろう。思えばそれぞれ成長はしているのだし、下級生は下級生なりに信頼のできる先輩を見つけていて、上級生は上級生なりに気にかける後輩を作っている。だからそう、プロデューサーが二人から一人になっても仕事が回ることは不可能ではない。…そう思えてしまえばしまうほど、わたしの存在価値ってそれほどなかったのかなと感じてしまう。自分の矜持をも砕いてしまうほど、虚しさに押し潰されてしまいそうで。ぎゅ、と膝の上で拳を作り、着なれない制服に皺を寄せる。

「なんて、そんな悲しい顔しないでほしいね。ぼくのとなりにいるんだから」

巴さんは「いいこいいこ」と抱え込むようにして私の頭を撫でる。先程まで漣さんに傾いていた身体はいつの間にか巴さんの方に傾いていた。頭を撫でているのとは逆の手で、膝に置いた手が包み込まれる。泣いている子供を慰めるように、よしよし、と優しい声が頭に響いた。頭と、手と、横に感じる体温に悲しみが追い討ちをかけてくる。
あんずではなく私を頼ってきたあの子達は、どうしているだろう。来週末のイベントのために今日だって自主練習をしているはずだ。明日のレッスンに足を運べないことを心のなかで謝罪をする。ごめんね、私は信頼を裏切ってしまう。
私を抱え込む巴さんの腕は、レッスン室で外された筈の枷を連想させるように私に絡み付いている。

2020.02.01.
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