Love call me.


33



結果的にいえば、2winkのイベントは成功だった。もちろんこういった現場に二人が慣れていたのもあるだろう。それでも心配ごとはあったし、成功かどうかは終わるまでわからない。だが私自身、100点とはいえずとも成功だと思ったし、引率の椚先生にも「あなたにしてはよい成績なのではないですか」といわれたので成功だ。なんといわれようと成功です。
オープニングイベントは終了し、今は片付けをしているところ。2winkのふたりも、見に来てくれていたあんずも手伝ってくれている。


「あんず」

少し離れた距離。声は届く場所にいたあんずに、聞こえなくてもいいかなと思いながら口にした言葉。

「…ごめんね、迷惑かけて」
「まだそれいうの?」
「だっていい足りないもん」

ちゃんとしっかり聞こえていたらしい。それこそ2winkのふたりにも何回か言ったし、あんずにもまだいい足りない。同時にありがとうとも伝えているから、怒られるだけはされないけど。
先ほど葵兄弟には「ごめんはもういい!」「俺たちもありがとうございました!」って言われてしまった。あんずは既に呆れたような表情で私を見る。だって私はあんずの足元にも及ばないようなプロデューサーで、こんなに回りに迷惑をかけるなんて本当にしょうもないじゃん。その辺の自覚をしているから謝罪の言葉が出てくるんだけど…怒られてしまうんだよなあ。何でだろう。非があるのは明らかにこちらなのは分かりきってるのに。


「双葉は何か決心したの?」
「え?」
「わかんないけど、イベントが終わっても気合いが入ってるような…」
「そ、そんな感じしてる?」

唐突に何を言われたのか、まだ誰にも言っていないことを言い当てられたような気がして驚いてしまう。実を言えば、このイベントが終わってからもう一度、日和さんに会いに行こうと考えていた。何も言わずに逃げ出してきてしまったのでどうしたらよいか方法はまだ考えていない。ただ何も言わないままというのは、冷静に考えてよろしくないという結論に至ったから。
もちろん連れ去ったことは常識的に考えて非はあちらにあると思う。それでもあの一週間の間、日和さんにそれなりのことはされたものの人間的には生活させてもらっていたのだし…なんて言うと、絆されてしまったのかと言われかねないが。当然と言えば当然のことをされていたのかもしれない。
それだけでなくて、日和さんが私を、愛してくれたことに変わりはない。きみが欲しい、愛してあげる、って私を求めてくれたことは事実。わたしは彼に愛されたまま、言葉も行動も何も返していないのに。こんなに離れたところにきてしまった。だから言わなければ。愛してくれたことに対して、わたしの返答を口にしなければ。それを日和さんはよしとしないかもしれない。返事は聞きたくないからおとなしく愛されていろといわれるかもしれない。それでも私は返したい。ちゃんと彼にわたしの言葉を聞いてほしいから。


「…ちょっとね。しっかり言いたいこといってこようと思ってるの」

そんな決心がついたのは昨日の夜。一人でベッドで丸まっていたときに、寝付くまでぐるぐると考えていたことが形になった。ちゃんと口にして返すべきだと。
玲明学園を出てくるときに思い返していた、わたしは日和さんをどう思っているのか?戻れないところはどこなのか?寝付きたいときに考えるべきことではないと分かっているけれど…考えなくてはいけないことだ。いつか向き合うべきことで、後回しにするか、考える時期がずれるだけ。本来なら日和さんのもとにいるときにちゃんと向き合っていればよかったのだ。いや、あそこにいたら今のような答えが出せたかは分からない。それでも…考えないでいたことはわたしの怠慢である。

「ならこんなことしてちゃダメ!」
「は?」
「細かいことは分からないけど、片付けしてる場合じゃないでしょ」
「いや、それとこれとはまた別…」

わたしの背中をぐいぐいと押すあんず。わたしの手に収まっていたものは華麗に奪われてしまった。事情を知らないだろうに、そういうことは察しがいい。そして強引なところは流石としか言いようがない。プロデューサーとしてあんずが成長している証でもある。

「…わかった」
「うん、それでよし!」

あんずのこの強引なところは何をしてでも引かない。諦めて従うのが一番体力を使わないし、手っ取り早いと知っている。だから大人しく従おう。

「がんばれ」

うん、がんばる。頑張ってくるよ。
あんずにプロデュースされるアイドルは、いつもこうやって送り出されるのか、としみじみ感じてしまった。ああ、いいなあ。羨ましい。アイドルたちも、こんな気持ちにさせることが出来るあんずも。
これからすることはプロデューサーとしての答えとして間違っているかもしれない。けれど今はちゃんと返事をするのが優先だ。プロデューサーとしてのわたしなんてまだまだこれからなんだから、ダメなことでもいくらでもしてやる。これから考えて、まだまだ成長できるんだから、そこから修正していけばいい。だからお願い、どうか待っていて。

2020.07.08.
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