Love call me.


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早いもので、数日というのはあっという間に過ぎてしまう。週の真ん中で夢ノ咲に帰ってきて週末のイベントの調整をして。玲明の日和さんのもとにいたときとは違った時間の流れだ。
明日はもう2winkのイベント。最近、葵兄弟は以前ほど二人での行動をしない。二人で各々業を習得して共有する、というやり方をしているようだ。それぞれのユニットのやり方があるので一概に強制はしない。むしろユニット内でのやり易いやり方があるのであれば、一般論よりもそちらを優先していい…いや、すべきだ。だから一年生のふたりが自分達でやり方を模索して経験を自分達のモノにしているのならそれでいいと思っている。そのおかげで私も衣装や、疎かになっていた依頼主とのやり取りに集中できたわけだし。

ぐい、と伸びをして身体を動かす。最後の最後、明日のイメージトレーニング。主役は彼らだけど、私は何の役も持たないわけではない。当日の彼らと現場の調整役でもあり、責任者でもある。学院の外の仕事だから先生も同席するけど、私がとってきた仕事で私がプロデュースをしている。先生が同席するとはいえ責任者の所在は私だろう。
内容はお店のオープニングイベントの仕事で、2winkは今までにお店の呼び込みやイベントの仕事をこなしたこともあるし、在学前にもそんなことをやっていたので私よりも手慣れている。だからふたりに心配はない。むしろ今しているのは私自身の心配だ。うう、あんずよりも仕事をこなす数が少なくて慣れていないから緊張もする。


「いよいよ明日だね。まだ寝ないのかい?」
「英智先輩」

…何故夜中に英智先輩といるのかというと、私が今、彼のお宅にお邪魔をしているからだ。

どうしてそんなことになったかといえば、夢ノ咲へ戻ってきた日。2winkのふたりと衣装合わせが終わり、あんずの予約してくれた空き教室で衣装を手直ししていた私はそのまま久しぶりの自宅へ帰ろうとしていた。そんなわたしの前に現れたのが英智先輩だ。その顔は笑顔なのに全然笑っていなくて、節々から怒っているのが分かった。普段は読ませない感情が滲み出ているのが珍しくて驚いてしまっていた私は、何故怒っているのかの原因が自分にあるなんて思ってもみない。そのまま腕を引かれて車にのせられ、たどり着いた場所がここ、天祥院家だ。先輩にいわせるとここは本家ではなく、先輩が登校しやすい場所にたっている別宅らしい。あとは比較的静かな場所なので療養できるという理由でここから通っているようだ。いやこれ関係ないな?
とにかく、ここに連れてこられてしまい「また連れ去られてしまった…」と思っている私の考えを意図も簡単に言い当てた英智先輩はため息をついて言った。

「馬鹿正直に自宅へ帰ろうとしていた双葉ちゃん。学院からでた瞬間にまた連れ去られるという考えはなかったのかい?」

ごもっともです。その考えには至りませんでした。軽率な行動でした。すみません。
全くもって英智先輩のいうとおりである。一週間ほど前に経験したときには寝不足などが重なっていたこともあるけど、さすがに同じ手に二度引っ掛かってしまう事態も考えられた。また日和さんのもとへ連れていかれれば、今度はどうなるか分からない。二度と外へ出してもらえないかもしれないし、と考え、身を震わせる。出てきたときの日和さんからはそんなことしないと思いたいけれど、どうなるかは彼の考え次第だ。
というかこのまま自宅に帰れないとするならば、私はどこに帰れば?学校に寝泊まりすると?泊まったことはもちろんあるし、現に寝泊まりしている朔間先輩とかもいるわけだから平気だと思うけど。さすがに何日もなんて学院側も許してくれないだろう。

「そんなきみに朗報だよ。日和くんの動向がつかめるまで、ここに住みなさい」
「……はい?」


…と、いうわけで、私はそのまま英智先輩のお宅に住まわせていただいている。登下校は基本的に英智先輩と一緒に。学院にいる時間もなるべく他の生徒と一緒に行動をする、という生活を送っている。文字にするとなんかあまり数日前と変わらない生活だな。
さすがに部屋を用意してもらっているけれど、なんだかんだ英智先輩は話し相手がほしいみたいだし。それを察して広間みたいなところで作業をしている私がいる。根詰めるような作業はしていないから、話しながらでも問題ない。作業をみるのも楽しいようで、別に話していなくても英智先輩は私をみていたりする。

「きみも夜更かし体質?秋に体調崩していたよね。学んでいないのかい?」
「あ、やだ。お説教は今聞きたくないです」

こうして今も、広間で作業をしている私を見つけてきてくれた。恐らくもう休む時間なのに。暖かくしているとはいえ、夜は寒い。冬は体調を崩しやすいから私に構わず寝てほしいんだけどな。というのが本音だ。決してお説教されたくないわけでは………あるけれど。

「…双葉ちゃんは遠慮した性格がどこかにいったよね。いいことではあると思うけど」
「? そうですか?」
「うーん。日和くんのところにいたからかなぁ」

確かに日和さんのもとへ行ってから、しっかりと自分の意見とかを口にすることが多かった気がする。主に日和さんの予想外な行動とかへの突っ込みだと思うが。しかし英智先輩の見解に自分も否定は出来ない。だってたぶん、その通りだから。

「面白いからこのままウチに住んでみる?」
「蓮巳先輩に睨みをきかされているのにこれ以上になれと…?」
「ふふ、それも面白いね」
「面白がらないでください!」

英智先輩がわたしを自宅へ住まわせるのに、蓮巳先輩は反対意見だった。だけど現状、他に私が連れ去られるのに回避できる方法がない以上こうするしかない。というか別に天祥院家である必要はないのだが、権力というのはこういうときに大きい。誰も天祥院には逆らえない…というか手をつけられないというか。下手に手出しが出来ない故に、避難させてもらっているのだ。
蓮巳先輩も根底の企みを分かっているからこそ、反対意見だが許容している。

「ああ、もう寝ないと。双葉ちゃんも早く寝るんだよ」
「あ、はい」
「明日、楽しみにしているよ。きみのプロデュースを」

そう言って自室に戻った英智先輩。私もそろそろ、寝なくては。広げていた書類をまとめて英智先輩が用意してくれた部屋へと戻る。

書類をしまい、明日の準備をして一人ベッドにはいる。明日は早く起きなくてはいけない。いい加減寝なければ。目を瞑ってみるけれど、意識はなかなか深い場所へと落ちていかない。
天祥院のおうちのベッドはふかふかで高級感溢れるものだけれど、寂しさで全身が悲しんでいる。ああ、どれもこれも、あの一週間で誰かの温もりのそばで寝ることを覚えてしまったばっかりに。隣にいない体温に、優しく強引に私の身体を抱き寄せる腕がないことに、ため息をつきながら再び目を閉じる。こんなにも、こんなにも一人で寝ることに違和感を感じてしまうなんて。

2020.07.02.
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