Love call me.


31



あんずから手渡された衣装を胸に、1年A組の扉を開ける。本来施錠がされるはずの放課後。まだ鍵が空いていて、同じ髪型、髪色の二人が室内にいることを確認してほっとする。扉を開けた音で気がついたのか、四つの大きな目が私の方を見た。

「うわ!本当に双葉さんだ!……本物だよね?」
「ちょっとアニキ!やめて!幽霊の話しはしないで!…って、なんてこというの」

まあ一週間姿を見せなかったのだから仕方がないだろう。詳しいことは伏せていたみたいだけど、英智先輩は私が私情で登校できなくて、その間わたしの仕事はあんずに引き継がれるって説明をしてくれていたみたいだし。登校できない期間なんかはなかったから私が本物かどうか疑うのも無理はない。ひなたくんの反応は正しいと思う。

「ごめん、待たせちゃって」
「ほんっとーに!俺たちのこと放っておいて」
「ごめん、ごめんなさい。謝ってすむことじゃないけれど」

頭を下げる。この二人にしたことは、許されなくても仕方がないけれど。それでも精一杯の謝罪の気持ちを込めて。

「うそうそ、嘘だよー。双葉さん顔あげて」
「週末のこと調整するんですよね。ここでします?それともどこか場所移しますか?」

まるで今回のことを気にしていないかのような口ぶり。な、なんか逆に心配になるんだけど。普通に遅刻してきただけのような受け取られ方で戸惑ってしまう。
そもそも流れるように仕事の調整に話がいってるのはどうして!?私と顔を合わせるのは短時間にしたいっていう意思表示?それならそもそも私と仕事はしたくない、という意見があっても良さそうなのに。初めに仕事を組んだから嫌だけど最後まで組むということ?まるで考えが分からない。双子独特の空気はあったけど、訳が分からなさすぎて考えが追い付かない。とりあえずここは、思いきってダイレクトに聞いてみるしかない。

「…わたしがプロデュースして、いいの?」
「えっ」
「…そもそも俺たちにこの仕事をくれたの、双葉さんじゃないですか」
「そうそう。なのに最後まで面倒見てくれないの〜?」

確かに仕事を2winkの二人に声をかけたのは私だ。だけどプロデュースはあんずにしてもらう、ということはこれまでにいくつもあった。だから今回もそうなるだろうと思っていたのに。彼らは私のプロデュースを希望した。理由は分からないけれど私を望んでくれたのならそれに答えるまで。そう思って今回、2winkと取り組んできたのに。

「折角信頼をしてわたしに託してくれたのに、期待を裏切るようなことになってごめんなさい」

途中からあんずに引き継がれて、でも私が帰ってきたら私に仕事が戻ってくる。それを当たり前にして、私のプロデュースをしていいといってくれる。言い表せない感情が込み上げた。嬉しさと、申し訳なさと、安心と不安が織り交ざった複雑な感情。ううん、もっといろんな感情が見え隠れしている。

「俺たち、先輩に嫌われたかなってショックだったんです」
「そんなわけ!むしろ私が嫌われてもおかしくないのに…」
「うん、先輩が俺たちを嫌いじゃないってわかって、よかった」

二人はとても穏やかな表情で私を見ていた。その穏やかな表情には不安定さも垣間見得て、ただ視線を奪われてしまう。彼らの背景をうすっぺらくしか知らない私には理解し得ない。けれど私が彼らを遠ざけたわけではない事実に、二人は取り繕うことのない感情を表した。よかった、安心した、すがりつくわけではないけれどそんなもの。私も似た感情を覚えて目が熱くなる。

「衣装は途中からあんずさんがなんとかしてくれた。でもやっぱり、最後の手直しは双葉さんにやってほしい」
「これは俺たち二人の意見です」

それ、俺たちの衣装なんですよね?そういってゆうたくんは私の持っている袋を指差す。今日は衣装合わせをする日だから…あんずがそう言っていた。彼らもイベントの為、イメージをするために今日の衣装合わせは楽しみだったのだろう。
いろいろ迷惑をかけたけど、ひなたくんもゆうたくんも私を求めてくれた。プロデュースは私に、といってくれた。ただそれだけのことに、嬉しくて。

「…ありがとう、ごめんなさい」

私はここにいていいのかな、といつも思っていた。あんずがいればいいのだろうという気持ちも覚えながら。それでも私を誰か必要としてくれないかと。私がいいと、誰かに言ってほしくて。無意味にすがりつくのはみっともないと思いながら、それでもすがりついていてよかったと思う。私は私を、肯定してくれる居場所がほしかった。

「もー!ごめんなさいはもう終わり!俺たちのプロデュース、してくれるんでしょ?」
「うん、する、したい!」


どこかで同じ感情を抱いた気がする。どこだっけ。最近、私はどこかで似た感情を…。

2020.07.02.
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -